北海道大学(北大)は11月2日、モンゴルにおいて初めて発見された恐竜営巣地における「テリジノサウルス」類の巣行動を解明したと発表した。

成果は、北大総合博物館の小林快次 准教授、韓国地質資源研究院のイ・ユンナム氏、モンゴル科学アカデミーのリンチェン・バルズボルド氏、カナダ・カルガリー大学のダーラ・ザレニトスキー氏、同・田中康平氏らの研究チームによるもの。今回の研究に関しては、研究の詳細な内容は、恐竜やほ乳類などの絶滅脊椎動物の研究をする「古脊椎動物学」において、世界最大の学会である「Society of Vertebrate Paleontology(米国古脊椎動物学会)」の第73回学会において、900超の研究発表の中から注目の高い研究の1つに選ばれ、日本時間11月2日付けで発表された。

モンゴル南部に広がるゴビ砂漠は、世界有数の恐竜化石産地だ。このゴビ砂漠の西部からは恐竜の骨化石だけではなく、卵の化石も多く発見されている。その多くは白亜紀後期のものだ。

その一方で、ゴビ砂漠の東部からは骨化石や卵化石の発見が比較的少なく、この地域の恐竜については明らかになっていなかった。しかし2012年の夏に行われた北大とモンゴル科学アカデミーの共同調査によって、同地域(ドルノゴビ州サインシャンドの南西80km)に露出する白亜紀後期のジャブクラント層から恐竜の営巣地が発見されたのである(画像1)。

この営巣地は、22m×52mという広範囲に広がり、少なくとも18個の巣が発見された(画像2)。なお、浸食された地層やまだ埋もれている地層の面積から、最大56個程度の巣があったと推定されている。営巣地が発見された地層を解析した結果によれば、この恐竜が扇状地に流れる河川の氾濫原に営巣地を形成していたことが明らかになった。

画像1(左):モンゴルの恐竜卵産地(●)と今回発見された営巣地(★)。 画像2(右):今回発見されたテリジノサウルス類の卵化石の産地。●が巣のある場所である

発見された卵の化石はそれぞれ球形をしており、その直径は13cmほど。1つの巣には、最大8個の卵が産み付けられており、その巣の大きさは51cm×43cmだった(画像3)。多くの巣は込み合った状態で作られており、巣と巣の距離が一番近いものだと1.5mほどしかなく、4m×4mの範囲に4つの巣が作られている具合だ。卵殻構造から、この卵は卵分類群において「デンドロオリスス科」のものであると判断され、これらの卵はテリジノサウルス類が産んだものと結論づけられた。テリジノサウルス類営巣地の発見は世界で初めてのことになる。

ジャブクラント層からは、原始的な角竜類である「ヤマセラトプス」の化石が多く発見されているが、テリジノサウルス類の骨化石はまだ発見されていない。しかし、その地層の上に堆積した「バヤンシレ層」からは、「エニグモサウルス」、「エルリコサウルス」、「セグノサウルス」など、数多くのテリジノサウルス類の骨化石が発見されている(画像4)。そこで、1つの巣にある卵の体積から卵を産んだ親の体重の推定が行われ、その結果、親の体重は35kgから290kgと考えられ、エルリコサウルスか、またはその体サイズのテリジノサウルス類の恐竜であることが推定された。

画像3(左):テリジノサウルス類の巣。 画像4(右):バヤンシレ層から発見されているエルリコサウルスの頭骨

これまでも、モンゴルからは多くの卵化石や恐竜の巣が発見されているが、これだけ多くの巣が集中した営巣地の痕が発見されたことも初めてのことだという。今回の発見により、テリジノサウルス類は集団で行動し、営巣地を形成していたということが判明した形だ(画像5)。また、これまで非鳥類獣脚類恐竜の営巣地は、米モンタナ州の「トロオドン」とポルトガルの「ローリンハノサウルス」のみだったが、今回発見されたテリジノサウルス類の営巣地は、非鳥類獣脚類としては世界最大となる。

さらに、テリジノサウルス類は、コエルロサウルス類という獣脚類の中でも鳥類に比較的近い恐竜であることが知られている。コエルロサウルス類の恐竜は、ワニ類といった典型的な爬虫類と鳥類の中間型の繁殖方法を取っていたことがわかっているが、コエルロサウルス類の一群であるテリジノサウルス類は、異例なほど原始的な巣の形、卵の形、卵殻構造をしており、「ハドロサウルス科」や竜脚形類により似ていることが今回の研究で明らかとなった形だ。

テリジノサウルス類の卵化石には、孵化した痕がみられ、その孵化率が非常に高いということも判明。先行研究によって、ワニ類は卵を産んだ親が巣の周りで卵を守ることによって孵化率を上げることが知られている。今回発見されたテリジノサウルス類の巣の構造から、鳥類のようには抱卵してはいなかったが、ワニ類のように巣の近くで天敵から卵を守り、孵化率を上げていたと考えられるという。

画像5。モンゴルのテリジノサウルス類営巣地の復元画。服部雅人氏によるイラスト