国立がん研究センター(国立がん研)は11月6日、光学顕微鏡と質量分析計を融合した日本オリジナルの分子イメージング装置である「質量顕微鏡」を用いてDrug Delivery System(DDS:薬物送達システム)抗がん剤(パクリタキセル内包ナノ粒子、NK105)の薬剤分布を高精細画像化し、創薬コンセプトの通り、DDS抗がん剤が通常の抗がん剤よりもがん組織に多く長く集まり、かつ正常組織にはほとんど移行しないことを明らかにしたと発表した。

同成果は、東病院臨床開発センター 新薬開発分野の安永正浩ユニット長、同 松村保広 分野長らと島津製作所の共同研究によるもので、詳細は英科学誌Natureの姉妹誌であるオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」に10月25日付けで掲載された。

NK105はパクリタキセルをナノ粒子に内包したDDS抗がん剤で、現在、転移・再発乳がんを対象に第III相臨床試験が行われているが、その副作用として手足のしびれ・痛みなどの末梢神経障害があり、悪化すると患者のQOLが低下するといったことが判明している。設計コンセプトは、がんに集まる抗がん剤というもので、効果増強や副作用の軽減が想定されていたが、実際の薬剤分布を視覚的に直接確認することはこれまでできていなかった。

DDS抗がん剤の創薬コンセプト

そこで今回の研究では、質量顕微鏡を用いて、NK105を投与したマウスのがん組織と正常組織を画像による評価を実施。その結果、NK105ががんの塊の奥深くまで長時間集まっていること、また正常な組織にはほとんど移行していないことが確認されたという。

質量顕微鏡によるDDS抗がん剤評価

がんの塊の奥深くまで長時間集まっていることと正常な組織にはほとんど移行していないことを確認

今回の結果について研究グループは、その創薬コンセプトがマウスにおいて証明されたことで、現在進行中の第III相臨床試験の結果が期待されるとコメントしているほか、前臨床の段階で詳細な薬剤分布を確認できるようになったことは、次世代のDDS抗がん剤のドラッグデザインにおいても強力な武器になるとしており、今後も国立がん研究センターと島津製作所が緊密な連携を図りながら、より効果的で副作用の少ない、患者にやさしい抗がん剤開発に取り組んでいく方針としている。