日本原子力研究開発機構(JAEA)は11月11日、金属の一種であるナトリウム中を紫外線が透過することを確認したと発表した。

同成果は、JAEA敦賀本部 レーザー共同研究所の大道博行 所長、同 鈴木庸氏、同量子ビーム応用研究部門の河内哲哉 研究主幹、同大洗研究開発センターの中桐俊男 研究副主幹、大阪大学大学院工学研究科の福田武司 教授、宮崎大学工学部の窪寺昌一 教授、同 加来昌典 助教らによるもの。詳細は11月4日発行の米国光学会(Optical Society of America)のインターネット版速報誌「Optics Express」に掲載された。

これまで紫外線は、金属を透過すると考えられてこなかった。実際、さまざまな金属の紫外線に対する透過率がこれまでの研究で調べられてきたが、数mm厚の金属を紫外線が透過するといった報告はなかった。その一方で、まだ十分に紫外線透過率が調べられていない金属もあり、ナトリウムも1930年代にジョンズホプキンス大学の研究者が紫外線域に透過の可能性があると指摘し、1960年代に、米国オークリッジ国立研究所で厚さ1μm以下のナトリウム薄膜を用いて研究が進められたが、光学的性質の1つである透過率の詳細は明らかにできなかった過去がある。

今回の研究は、福田教授らが報告した、紫外線領域における高い透過率およびその性質を用いた可視化技術による応用研究の重要性の指摘に基づき、JAEAの関西光科学研究所で予備実験を実施し、透過の可能性を確認したことから行われたもの。

ナトリウムの透過率の精密測定を実現するためには、酸化の無いサンプルが必要となるため、今回、研究グループでは、高品質の金属ナトリウムを紫外線を透過させるフッ化マグネシウム(MgF2)に挟み込む工夫を施すことで、長時間にわたって金属としての性質を保持できる高品質なナトリウムサンプルを作成することに成功した。

ナトリウムサンプル作成作業の様子

今回作成されたのは厚さ1~8mmの試料

研究では、そうして開発された厚み1~8mmのサンプルを、安価な重水素ランプから紫外線を発生させる光源部、サンプルの保持と温度をコントロールするためのヒーター、ナトリウムサンプルを透過した光の波長と波長毎の光量を測定する分光器から構成される紫外線照射試験装置に装填。光源から発せられる紫外線をサンプルに照射した際に、サンプルの裏側に透過してくる光の有無を分光器により調べた。

ナトリウムの透過率測定に使用した紫外線照射試験の配置図

その結果、波長115~170nmの紫外線がナトリウムを透過することを実験的に確認したほか、その際、ナトリウム中で紫外線が透過する割合(透過率)は1mmあたり90%以上であることも確認したという。また、ナトリウムが液体化した際の透過率を調べるために、ヒーターでナトリウムを150℃まで加熱して液体状態での透過率を測定したところ、固体の場合とほぼ同様の透過率が得られることも判明したとする。

さらに、紫外線を照明に使うことで、ナトリウムに隠された物体の透視の模擬実験を実施したところ、紫外線は厚さ8mmのナトリウムを透過し、その後ろに配置した目の粗さ1mmの網(メッシュ)の像を取得することに成功した。

紫外線を照明に使うことで、ナトリウムに隠された物体の透視の模擬実験の配置

具体的には、画像では、可視光は透過させるが、紫外線は透過させない厚さ1mmのパイレックスガラス板で覆われた部分が黒くなっていること、ならびに太さ0.1mmのメッシュの金具部分が明瞭に撮影されていることが確認されたことから、実際にメッシュ像は、ナトリウムを透過した紫外線によるものであることが検証されたという。

厚さ8mmのナトリウムの透過像を取得することに成功。図中のパイレックスガラスと書かれた部分には厚さ1mmのパイレックスガラス板が挿入されている

今回の成果について研究グループは、従来の金属理論では考えられない高い紫外線透過率を示した実験例であり、基礎科学の観点から、ナトリウムや、それと同種の原子構造を有するアルカリ金属の光学的性質に新たな理論的課題を提供するものと期待されるとコメント。また、技術的観点からは、これまで光は一切通さないと考えられてきたナトリウムの中で起こる種々の現象を、光を用いてリアルタイムで透視する新しい技術の可能性が示されたとしており、将来的にはナトリウムを使用するプラントなど、産業利用施設における保守管理やナトリウムの流動現象の高精度な理解に貢献する高精度モニター技術実現に向けた技術に道が開かれたとコメントしている。