浜松ホトニクス(浜ホト)は10月31日、照射幅を現行品の2倍の300mmに広げ、A3サイズの処理を可能にした低エネルギーのライン照射型電子線照射源「EBエンジン」を発表した。

電子線は低エネルギーだが、紫外線に比べて桁違いに高いエネルギーを持つため、物質内部にまでさまざまな反応を引き起こすことができ、非接触で物質の外側から反応させたり、物質が本来持っていない新しい機能をつけたりすることができる。また、ドライ処理のため環境負荷がなく、紫外線や加熱処理に比べ瞬時に処理ができることから、古くから多くの産業で利用されてきた。

例えば、プラスチックやゴムなどの高分子材料に照射して、分子間の結合を切ってから網目状の構造に化学結合を起こすことで機械的強度や耐熱性、耐久性を向上させること(架橋反応)や、別の機能性分子を反応させて接木のように高性能分子の枝をつけ(グラフト重合反応)素材が本来持ちえない性能を付加し、例えばフィルタ素材に臭いをトラップする機能を付加した脱臭フィルタなどを作ることなどに応用されている。同社は、2008年4月に照射幅150mmのEBエンジンを発表。その後、各分野で採用されてきたが、幅広いラインでは、複数台を設置する必要があり、照射幅の広げた電子線照射源の開発が求められていた。

同製品は、偏向コイルにより電子ビームを振ることによって、出射窓から300mm幅の電子線を均一に照射することが可能。窓材に透過性の良い軽元素の特殊金属箔を採用した他、独自技術により真空耐圧強度を確保して300mm幅を実現した。また、充分な線量を確保するため、電子銃を改善して管電流を8mAまで向上させた。これにより、生産ラインのスピード向上を可能にした。1m幅フィルムへの照射に対しても、3台の組み合わせで対応可能となる。

搭載する低エネルギー電子線は最大加速電圧が70kVで、数keV~数十keVの低エネルギー電子線を照射するため、フィルムなどの試料の最表面数十μm以内を改質・化学変化させることができる。さらに、大気中への低エネルギー電子線の発生に成功した。この低エネルギー電子線は対象試料表面で全て吸収されるため、電子線のエネルギーが全て改質に寄与する。そのため、従来の高いエネルギーの電子線照射に比べ改質の効果を大幅に高めることが可能となり、省エネ化が図れる。

一方で、電子線照射に伴い、2次的にX線が発生する。このX線のエネルギーは加速電圧によって決まるため、従来の高いエネルギーの電子線照射源に比べ、発生するX線のエネルギーは低く、遮蔽が簡素化される。このため、搬送ラインに導入しやすいことも優位な点となっている。

加えて、低加速電圧での駆動や構造の最適化により、消費電力の低減、電子線照射源の小型・軽量化を実現した。さらに、電子透過性が高い特殊金属箔を出射窓に用い空冷方式の冷却機構を付加することで、長寿命を実現し、消耗品である出射窓とフィラメントの交換を年1回程度に抑えた。従来の大型または高いエネルギーの電子線照射源に用いられる水冷機構が不要になり、冷却水による水漏れ等の不具合も発生しない。

他社製の電子線照射源は、真空封じ切り型のため、窓箔や電子銃が寿命を迎えた場合、それらのみの交換が不可能で新たな電子線照射源を購入する必要があり高額なメンテナンスコストが発生してしまう。これに対し、同社の低エネルギー電子線照射源は、窓箔や電子銃が簡単に交換できる開放型を採用。これにより、消耗品を定期交換することで低予算での生産ラインの維持管理が可能となる。消耗品交換はユーザーで対応可能、交換後の調整も必要ない。

なお、12月2日より受注を開始する。受注生産で納期まで4カ月を要する。価格は2520万円。販売数量は1年目で年間20台、3年後には同50台を目標としている。

ライン照射型電子線照射源「EBエンジン」