黒潮と親潮が合作で生み出す東北・北海道沖の「高気圧渦」 - AORI

東京大学 大気海洋研究所(AORI)は9月20日、人工衛星や船舶などによる観測結果から、黒潮に起源を持ち、東北・北海道沖の太平洋に出現する時計回り渦の暖かい「高気圧渦」(暖水渦)と、オホーツク海に起源を持つ冷たい高気圧渦(冷水渦)の分布を明らかにし、また海水の分析から、上層に暖水核を持つ渦の多くが中層には冷水を保持しているということを発見したと発表した。

成果は、AORI附属地球表層圏変動センター 海洋生態系変動分野の伊藤幸彦准教授、AORI 海洋物理学部門海洋大循環分野の安田一郎教授らの研究チームによるもの。

鳴門の渦潮から太平洋規模の循環流まで、海にはさまざまな大きさの渦がある。この内、大気の高気圧・低気圧に相当するのが半径数10~100km程度のいわゆる中規模渦だ。中規模渦は日本の近海にも多く見られるが、中でも東北・北海道沖に出現する時計回りの高気圧渦(画像1・左)は出現頻度が高く、プランクトンの増殖やサンマ・カツオなどの漁場形成にも大きな影響があることで知られている。

高気圧渦は、中心部の海面が盛り上がって内部の圧力が高くなっているのが特徴だ。そして海洋の高気圧渦、低気圧渦は大気の高気圧、低気圧と同様に、地球自転の影響(コリオリの力)を受け、北半球では高圧部を右に見るように、すなわち高気圧渦は時計回り、低気圧渦は反時計回りに回転する。南半球では地球自転の作用が逆になるので、高気圧渦は反時計回り、低気圧渦は時計回りになる。また、内部には周辺よりも密度の低い(水温が高いほど、また塩分が低いほど密度は低くなる)海水があり、「等密度面」が下に押し下げられている(画像1・右)。

なお、海洋は上が軽く(低密度)、下が重い(高密度)層状構造をしていることから、同じ層の上にある海水は密度が等しいので、層の境界面は等密度面と呼ぶ。海水の密度はおおむね1000~1070kg m-3(1リットルあたり1~1.07kg)と比較的変化が小さいので、特定の密度面を表記する時は、1000kg m-3を基準に水温と塩分による変化分「σθ(シグマシータ)」を用いる。1026.7kg m-3なら26.7σθという具合だ。

画像1。高気圧渦の衛星写真(左)と、その垂直断面

渦がプランクトン増殖や漁場形成などに与える影響は、保持している海水の性質によって異なる。高気圧渦は世界各地に出現し、多くは亜熱帯系の高温・高塩分・低密度・低栄養塩の海水を核に持っている。

では、東北・北海道沖を含む黒潮・親潮続流域において、どのような高気圧渦がどこに存在し、またそれらはどのような性質の海水を保持しているのか、研究チームはそれらを明らかにするため、人工衛星で観測された海面高度(海面の盛り上がった場所がわかる)と研究船やプロファイリングフロート(自動的に浮き沈みして水温・塩分などを測定することができる観測機器)により、実際に観測された水温・塩分の鉛直(深さ方向の)分布の調査を実施した。

なお、日本の南を流れる黒潮が房総半島付近で岸から離れ、東へ向かって流れるが、この黒潮が離岸してからの海流は、日本南岸の黒潮とは区別して黒潮続流と呼ばれることがある。同様に、北海道沖を南西に流れてくる親潮が離岸して東~東北に向かう部分は、親潮続流と呼ばれることがある。

海面高度から推定した高気圧渦(16年間の資料から、のべ約1万2000個の渦を検出)の位置を用い、約1万5000個の水温・塩分鉛直分布資料から、渦の中心に十分近い位置で観測された227個の資料が絞り込まれた。これらの資料のデータを解析した結果、高気圧渦は日本の東方沖合を走る日本海溝と千島・カムチャツカ海溝付近、特に常磐~釧路沖の海域に高い頻度で検出されたのである。

上層に温かい海水を保持する暖水性の高気圧渦の暖水渦は、この海域で観測された高気圧渦全体の約85%を占め、北海道以南の海溝最深部付近に多く存在していた(画像2)。一方、残りの15%は冷水性の高気圧渦の冷水渦である。冷水渦は、千島列島沖や海溝の斜面域、黒潮続流域においても観測された。

画像2。暖水性高気圧渦(□)と、冷水性高気圧渦(△)高気圧渦の分布。記号のサイズが大きいほど暖かい

暖水渦内の海水は南に行くほど高温・高塩分で黒潮続流の性質に近く、北に行くにつれて低温・低塩分化していた。一方、冷水渦は千島沖で最も低温・低塩分で、南に向けて高温・高塩分化していた。

この南北分布は、暖水渦が黒潮続流、冷水渦がオホーツク海にそれぞれ起源を持つと考えれば説明することができる。ところが、このような単純な移動だけでは説明できない構造が暖水渦の中層に見つかった。これらの渦の上層には高温・高塩分の海水があるにも関わらず、中層では等密度面で見て海域平均より低温・低塩分となっていたのである(画像3)。そして、この低温・低塩分水は各海域の暖水渦、冷水渦のすべてにおいて、共通の密度面26.7σθを中心に存在していた。

画像3。暖水性高気圧渦(左)と・冷水性高気圧渦(右)が上下整列する相互作用の模式図

研究チームは、この暖水渦中層の低温・低塩分水は、千島沖で形成される冷水渦に起源を持つと考察。これは、黒潮起源の暖水を上層に持つ暖水渦が、その中層と同じ密度帯に冷水を持つオホーツク海系冷水渦を取り込めば実現するからだ(画像3)。理論的には、同じ方向に回る渦(この場合は時計回り)同士は一定の条件を満たせば結合するが、渦が異なる層に存在する場合は特に「上下整列」(「アライメント」と呼ばれる)することが知られている。

黒潮とオホーツク海という離れた海域の水が、高気圧渦によって運ばれ、遭遇、相互作用し、暖水と冷水が上下に整列する、というのが研究チームの描くシナリオだ。亜熱帯系の暖水と海氷の影響を受けた冷水が結合した渦は、他海域ではいまだ発見されていない希有な存在である。このような渦が、東北・北海道沖の豊かさや多様性とどのように結びついているのか、今後のさらなる調査・研究が待たれるとしている。



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