奥村組と地球観測、マックは10月3日、山岳トンネル工事において、トンネルの壁面変位を連続的に自動計測し、リアルタイムに監視できる移動式坑内変位自動計測システムを共同開発し、滋賀県発注の道路トンネル工事へ適用して、実用性を確認したと発表した。

NATM工法によるトンネル工事では、地山の安定性や支保の妥当性を確認する際に、トンネルの壁面変位を計測することが一般的となっている。特に、地山が脆弱な場合は、掘削した地山の変位が収束しにくいことから、壁面変位の計測頻度を増やすとともに、異常を即座に把握できる監視体制を確立することが求められる。計測頻度を増加させる技術としては、主にトータルステーション(測量機器)を用いた自動計測システムが採用されている。このトータルステーションは、坑内作業の邪魔にならないよう、一般的に壁際に固定して取り付けられるが、計測精度を維持するための機械的制約や、坑内環境の変化により視準不可能な測点が生じたりするために、トータルステーションを適宜前方に移設する必要がある。この移設には、通常半日程度の時間がかかるため、この間、計測が長時間にわたって中断してしまうという課題があった。

また、地山挙動を常時監視するためには、計測データを切羽から坑外に連続して安定的に送信する必要があったが、従来の有線方式ではケーブルの敷設やメンテナンスに要するコストの増加が、また、無線方式では坑内の大型機械などが支障となり、通信障害を生じやすいことなどが懸念されていた。そこで、3社は、トータルステーションの移設が容易で、計測データの安定した転送を可能とする移動式坑内変位自動計測システムを開発し、壁面変位の連続計測とリアルタイム監視を実現した。

従来型の有線方式による壁面変位計測の模式図

今回の移動式坑内変位自動計測システムの模式図

同システムは、自動整準機構付きトータルステーションと、計測データを転送する高感度無線伝送システムから構成されている。自動整準機構付きトータルステーションは、傾斜計とアクチュエータを内蔵したステージ(精度±1度)と精密整準機(精度±10″)を備え、専用車両に搭載される。トータルステーションを車載型にすることで、壁際の高所に固定的に設置する従来の方式と比べ、その移設時間を大幅に短縮することが可能になった。この自動整準機構付きトータルステーション搭載した専用車両を任意の場所に停車させて整準スイッチを押すと、ステージは傾斜(最大20度)に応じて自動で水平に調整され、トータルステーションの整準が短時間で行われる。その後、操作パネルに概略位置を入力することによりトータルステーションが自動的に2つの基準点をサーチして正確な自己位置を測定し、移設が完了する。高感度無線伝送システムは、障害物回避特性に優れた中継機であるデータの送受信機を利用して、計測データを切羽から坑外に転送するシステムであり、大型機械等の影響を受けずに安定したデータの転送を可能にしている。

自動整準機構付きトータルステーション

本システムによる計測状況

中継機

今回、発破掘削方式を採用する道路トンネル(平面線形:R=250m区間を含む)において、壁面変位の計測に同システムを適用したという。その際、トータルステーションの移設に要した時間は、新しい測点の設置作業を含めても、15分程度と短時間となった。計測データの転送についても、約150m以内の間隔で中継機を配置することで、トンネル線形に拘らず、切羽から坑外まで安定してデータが転送されることを確認し、リアルタイムに地山挙動を把握することができた。また、トンネル発破にともなう計測中断時間は、掘進1サイクル6時間(削孔、装薬、発破、ズリ搬出、吹き付け、支保工、ロックボルト)当たり、車両退避などによる30分程度であったことから、地山挙動を連続的に監視するうえで大きな支障とはならず、実用性に問題がないことも確認した。

今後、地山が脆弱な山岳トンネル工事に対する地山挙動の連続監視技術として、同システムを展開していくとともに、早期開通が求められるリニア中央新幹線や復興道路などの山岳トンネル工事に対して、急速施工にも寄与する技術として積極的に提案していくとコメントしている。

実工事での中継機の設置位置(坑口からの距離)