東大、メスマウスからオスマウスの性行動を抑制するフェロモンを発見

東京大学(東大)は10月3日、匂い、フェロモン、味物質といった化学感覚シグナルが情動や行動を引き起こすまでの生体内のメカニズムを解明する研究において、オスマウスの性行動を抑制する幼少フェロモンを発見したと発表した。

同成果はDepartment of Cell Biology, Harvard Medical SchoolのDavid M. Ferrero氏、Institute for Biology II, RWTH Aachen UniversityのLisa M. Moeller氏、東大大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 博士課程の小坂田拓哉氏、同 堀尾奈央 学振PD研究員、Department of Cell Biology, Harvard Medical SchoolのQian Li氏、Department of Cell Biology, Harvard Medical SchoolのDheeraj S. Roy氏、Institute for Biology II, RWTH Aachen UniversityのAnnika Cichy氏、Institute for Biology II, RWTH Aachen UniversityのMarc Spehr氏、東大大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻の東原和成 教授(JST ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト研究総括)、Department of Cell Biology, Harvard Medical SchoolのStephen D. Liberles氏らによるもの。詳細は「Nature」に掲載された。

匂いやフェロモンといった化学感覚シグナルは、哺乳類のさまざまな行動や情動を制御しており、その中でも外分泌液に含まれるフェロモンは、嗅覚神経回路を介して脳にその情報が伝達されることで、社会行動や性行動など、哺乳類にとって重要な行動が制御されることが知られている。例えばこれまでの研究から、マウスの尿には異性を引き付ける揮発性のフェロモン物質が確認されているほか、オスマウスの涙にはメスマウスが背中をそらしてオスマウスの交尾を受入れやすくする体勢(交尾受け入れ行動)を促進するフェロモン(ESP1)が含まれていることが報告されている。

今回の研究では、性成熟する前の幼少メスマウスの涙から特異的に分泌されるESP1と相同性のあるペプチドをコードする遺伝子ファミリ(ESPファミリ)に属するタンパク質「ESP22」が、同タンパク質が生後2~3週令で分泌量が最大になり、性成熟する4週令になると急減し、大人になるとほとんど分泌されないという動きから、「まだ性成熟をしていない」という信号であるという仮説を立て、マウスの行動観察を脳の情報処理機能の解明に向けた実験を行ったという。

実験では、多様な系統のマウスの中からCBAとC3Hの系統ではESP22が分泌されていないこと、ならびに大人のオスマウスは、2-3週令のESP22を分泌する他のマウス系統(C57BL/6やBALB/c)のメスマウスよりも、同じ週令のCBAやC3H系統のメスマウスに対して交尾行動(マウント)を3-5倍多くしかけることが確認された。

具体的には、大人のオスマウスはC57BL/6やBALB/c系統の幼少メスマウスには30分に5-15回の頻度でマウントをしかけたのに対して、CBAやC3H系統の幼少メスマウスに対しては30-40回ほどであったほか、ESP22を分泌しないC3H系統の2-3週令の幼少メスマウスにESP22を塗った場合では、大人のオスマウスはまったくマウントをしかけなくなることが判明。また、性成熟した大人のメスマウスにESP22を塗った場合でも、塗らない場合と比べて、大人のオスマウスは3分の1程度しかマウントをしかけなくなることが確認されたという。

さらに脳の情報処理部位の調査を行ったところ、これまでの研究からESP1などのフェロモンが、鼻腔下部の鋤鼻器で感知されていることが知られていたが、鋤鼻器機能欠損マウスを用いても、ESP22による交尾行動の抑制は見られなかったこと、ならびにESP22を大人のオスマウスの鋤鼻神経に投与すると神経の活性化(電気信号)が見られたこと、ESP22によって引き起こされる信号は、扁桃体という情動や本能的行動が制御される脳領域に入力されていることなどが判明したという。

これらの結果から研究グループは、ESP22が性成熟する前のメスマウスに交尾をしかけるような余計なことをしないように、大人のオスマウスの性行動を抑制する幼少フェロモンであることが示されたとするが、ESP22をコードするDNAの塩基配列は、ヒトゲノム上には存在しないことから、鋤鼻器もヒトでは機能しておらず、直接、ヒトへの応用に結びつくものではないとも説明している。今後、今回の成果を活用することで、マウスの行動がどのような化学感覚シグナルによって制御されているか、その理解を深めることが可能になるとするほか、哺乳類の情動や行動を支配・制御する脳神経回路の解明に向けた有用な基礎研究基盤として活用されることが期待されるとコメントしている。

性成熟前の幼少メスマウスの涙腺から分泌されたESP22が、鋤鼻神経系を介して大人のオスマウスの性行動を抑制するイメージ



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