開花した野生型のキク(左)と、過剰な「アンチフロリゲン」によって花が咲かないキク
(提供:農研機構 花き研究所)

農業・食品産業技術総合研究機構花き研究所(茨城県つくば市)と香川大学の研究チームは、キクの花が不適切な季節に咲かないように開花を抑制する植物ホルモンと、その遺伝子を発見したと発表した。キクは一日のうち昼が短くなると咲き出す“短日”植物で、花を咲かせるホルモンとの組み合わせで、開花時期が決められていることも分かった。

植物は葉で日照時間の長短を認識し、開花のための植物ホルモンも葉で作られるという仮説が1936年に提唱されていた。その後、開花を決める植物ホルモンには、花を咲かせるホルモンと花を咲かせないように働くホルモンの2種類があると考えられた。2007年に、花を咲かせるホルモン「フロリゲン」の正体が奈良先端科学技術大学院大学の島本功教授らによって明らかにされたが、花を咲かせないように働くホルモン「アンチフロリゲン」については不明だった。

研究チームは、キクの植物体から、花の咲かない時期に、一日の昼が“長い”条件でよく働いている遺伝子を分離した。開花する短日条件でこの遺伝子を働かせ、特有のタンパク質を作らせたところ、キクは花を咲かせなかった。このタンパク質は主に葉で作られ、茎の先端に長距離移動するが、茎の先端での開花も抑制することから、アンチフロリゲンの遺伝子だと分かった。

通常のフロリゲンは、茎の先端に移動すると「FD」というタンパク質と結合し、花芽を作る遺伝子群を誘導するが、アンチフロリゲンの量が多いと、フロリゲンの作用は抑えられ、これらの遺伝子群の働きも抑えられることも分かった。

一般にキクは秋に咲く花だが、切り花の“持ち”の長さや出荷時期を調整するために、夜間に照明を当てて開花を抑える「暗期中断」という方法で電照栽培が行われている。実験の結果、葉にある赤色光の受容体がセンサーとして働き、暗期開始後、一定時間だけ赤色光が当たるとアンチフロリゲンの遺伝子が働き、開花が抑えられるのだという。

開花を促すホルモンと抑制するホルモンが明らかになったことで、開花時期を自由に制御する技術の開発や、農作物の安定生産にもつながるとみられる。

研究論文“The gated induction system of a systemic floral inhibitor, antiflorigen, determines obligate short-day flowering in chrysanthemums”は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」(オンライン版)に掲載された。

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