名古屋大学(名大)は9月24日、大阪市立環境化学研究所、滋賀県立大学との共同研究により、在来の植物が外来種に追いやられるメカニズムをタンポポで明らかにしたと発表した。

成果は、名大 博物館の西田佐知子准教授、同・大学院理学研究科の金岡雅浩助教、同・大学院環境学研究科修士の橋本啓祐氏(当時)、大阪市立環境化学研究所の高倉耕一研究主任、滋賀県立大環境科学部の西だ隆義教授らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、9月20日付けで英国生態学協会発行の学術誌「Functional Ecology」速報版に掲載された。

在来植物が外来植物に追いやられて置き換わってしまう現象は、従来の生物多様性を変えてしまう深刻な問題となっている。日本でもタンポポ、イヌノフグリ、オナモミなど、多くの身近な植物に起こっているが、どのようなメカニズムで起こっているのか今まではわかっていなかった。

よくいわれるのは、外来種が「強い」から在来種を駆逐するというものだが、実はその「強い」に具体的な根拠はない。在来種を駆逐している結果から「強い」とされていたのである。結局のところ今もってそのメカニズムは不明のため、在来種を守るには外来種を根こそぎ取るなど、効率の悪い形でしか保全の対策を立てることができなかったというわけだ。

そこで研究チームは今回、日本在来のタンポポでも、セイヨウタンポポやその雑種によって追いやられている種と、ほとんど追いやられることなく共存している種があることに注目し、それらのめしべ内で何が起こっているのかを研究することにしたのである。

具体的には、セイヨウタンポポに追いやられている近畿地方の在来タンポポである「カンサイタンポポ」と、追いやられていない東海地方の在来タンポポ「トウカイタンポポ」(画像1)に各種の花粉を人工授粉し、在来タンポポのめしべがどのような反応を示すかの比較が行われた形だ(画像2)。

画像1。トウカイタンポポ

画像2。名大構内での実験の様子

その結果、まず在来タンポポのめしべでは、花粉がたくさん付着したとしても、その内の2~3の花粉からしか花粉管が雌しべを通っていかないことが発見された(画像3)。そしてセイヨウタンポポや雑種の花粉管は、近畿のカンサイタンポポのめしべの中は「胚珠」(将来の種子になる部分)まで通っていくのに、トウカイタンポポのめしべでは途中で止まってしまうことが確認されたのである(画像4)。

つまり、カンサイタンポポはセイヨウタンポポの花粉を間違って受け入れてしまうのに対し、トウカイタンポポはセイヨウタンポポの花粉を途中で拒絶できるというわけだ(画像5)。セイヨウタンポポの花粉を間違って受け入れためしべは、そのあと種子を作るのに失敗し、子孫の数を減らしてしまう。そうすると次世代の個体はますます周りをセイヨウタンポポらに囲まれ、その場から急速に追いやられてしまうというわけである。

なお在来種とセイヨウタンポポとの雑種も存在するが、雑種が誕生する確率はそれほど高くないという。ただし、雑種が数多く見えるのは、クローン繁殖するからだ。また雑種も花粉を出すため、セイヨウタンポポの花粉と共に在来タンポポの子孫を減らしていく効果が大きいとされているのである。

ちなみにこの現象は「繁殖干渉」と呼ばれ、ある生物が繁殖において間違って近い種類の種に悪影響を与えてしまうというものだ。在来タンポポはほかの個体から花粉を受け入れないと種子ができないため、カンサイタンポポのようにセイヨウタンポポからの繁殖干渉を受けてしまう場合があるのである。一方、セイヨウタンポポや雑種は種子を作るのに花粉を使わないことから、繁殖干渉を受けない。従って、追いやられるのは在来種ばかりとなるというわけだ。

画像3(左):トウカイタンポポは外来種の花粉管をブロックできるが、カンサイタンポポはできない。画像4(中):在来タンポポに各種の花粉を受粉させた結果、トウカイタンポポのめしべは、セイヨウタンポポの花粉だけをつけた時、多くの花で花粉管が子房を通らなかった。画像5(右):在来タンポポに対するセイヨウタンポポからの繁殖干渉の至近メカニズム

今回の成果により、在来植物が近縁の外来種に追いやられる現象に、繁殖干渉が大きく関わっている可能性が確認された。この発見は今後、在来種に被害を及ぼす恐れのある外来種の予測や、外来種からの繁殖干渉を防ぐ対策につながるという。具体的には、新しい外来種が発見された時、それと近縁の在来種に外来種の人工授粉実験を行って繁殖干渉の有無を調べることで、外来種からの繁殖干渉による在来種駆逐がどの程度起こりそうかを予測することができるかも知れないとした。また、外来種の花を取ってしまうという比較的簡単な作業で、外来種からの繁殖干渉による在来種の駆逐を抑えることができるとする。今回の成果は、生物多様性の保全に大きく役立つことが期待されるとした。

さらに、外来種問題から離れて純粋な生物学的な意味からも繁殖干渉の研究は大きな意義を持つという。すなわち、近縁の生物が同じ場所にほとんど存在しないというダーウィンの時代から謎とされていた現象の解明につながることが期待されるとしている。