京都大学は9月20日、米テキサス大学との共同研究により、がん抑制遺伝子と、1日約24時間の生体に備わっているリズムである概日リズム(サーカディアンリズム)を制御する遺伝子との新しい関連の解明に成功したと発表した。

成果は、京大 医学研究科の三木貴雄特定助教、テキサス大のLee Cheng Chi教授らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、9月20日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

近年のライフスタイルの多様化により、規則正しい生活を送れない人々が増加しているのはよく知られたところだ。大規模疫学研究によると、不規則な生活とならざるを得ないシフト勤務者では、がんの罹患率が有意に上昇していることが報告されている(画像1)。

これに伴い、シフト勤務は、国際がん研究機関(IARC)でヒトに対する発ガン性があると考えられるグループ(グループ2A)に分類された。これは、子宮頸がんを引き起こすとされる「ヒトパピローマウイルス(31、33型)」と同じ分類に入る。このことから概日リズムの破綻とがんの発生には重要な関連があることが示唆されているというわけだ。

概日リズムは腫瘍細胞を含む全身の個々の細胞に存在する。ところが、悪性のがんでは、概日リズムが崩れている細胞が多く観察される点が特徴だ(画像1)。しかし、なぜそういったことが起こるのか、その分子メカニズムはいまだ不明である。そこで研究チームは今回、ほぼ半数のがんで機能欠損が見られるがん抑制遺伝子「p53」を人為的に操作したマウスで、概日リズムを計測するという手法を用いてアプローチを行い、分子メカニズムの解明を試みた次第だ。

画像1。概日リズムの破綻とがん化の関連

研究チームは、p53の発現を放射線や薬剤、プラスミドの導入などのさまざまな方法で誘導した場合に、生体リズムの形成に必須の遺伝子「Period2(Per2)」の転写を抑制することを発見。その分子メカニズムは、Per2の正の転写因子である「BMAL1/CLOCK」のPer2プロモータ領域への結合を競合的に阻害することにより抑制するものだった。

またp53欠損マウスの解析から、p53は生体でも同様にPer2の発現を負に制御していることを解明。次に、p53欠損マウスの概日リズムを計測すると、野生型と比べ、1日の時間が有意に短いことが確かめられた。これらの結果は、がん抑制遺伝子であるp53は概日リズムの重要な制御因子でもあることを示唆しているとする(画像2)。

画像2。p53はPer2の転写を抑制し、概日リズムを抑制する

がん抑制遺伝子であるp53を機能欠失した細胞は、がん化が進行すると同時に概日リズムを崩してしまうことから、p53機能欠損によるがん化に、どれほど生体リズムの制御が関係しているかが今後の課題であり、新しい治療標的につながる可能性があるという。

またがんの化学療法や、放射線治療により、生体の防御機構としてp53タンパク質がしばしば活性化される。つまり、これらの治療が行われた患者で起こる睡眠障害などを誘導するメカニズムの一因が、p53による概日リズムの変化により説明できる可能性を示した形だ(画像3)。

画像3。がんと概日リズムの新しい関連を示す