東北大学は9月10日、九州大学応用力学研究所、自然科学研究機構 核融合科学研究所の協力を得て、核融合を目指すプラズマの閉じ込め性能の悪化が、電子温度の傾き(空間勾配)によって高周波揺らぎが発生し、さらにそれから低周波揺らぎへエネルギーが移ることによって起こることを突き止め、そのメカニズムを明らかにしたと発表した。

成果は、東北大大学院 工学研究科の金子俊郎教授、同・畠山力三名誉教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間9月10日付けで米物理学協会が発行する科学誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載された。

核融合発電の実現には、太陽の表面温度をはるかに超える1億度以上のプラズマを磁場の力で容器内部に閉じ込める必要がある。しかし、多くの磁場閉じ込め型プラズマ装置では、予測をはるかに上回る大きさでプラズマが周辺に拡散損失してしまう「異常輸送」が発生し、閉じ込め性能を悪化さることが問題となっていた。この異常輸送のメカニズムの解明は極めて重要な研究課題となっている。

これまでに、異常輸送はプラズマの温度や密度の揺らぎである「不安定揺動(モード)」に起因することはすでに解明済みだ。特に、プラズマ中の質量の重い正の電荷を持つイオンの異常輸送を説明するものとして、低周波数(数キロヘルツ)の「イオン温度勾配不安定揺動(ITGモード)」が提案されている。このITGモードは、プラズマ中に自発的に形成されるプラズマ流の「帯状流」によって抑制されることは確認済みだ。

一方で、質量が軽く負の電荷を持つ電子も、極めて大きな異常輸送を引き起こし、閉じ込め性能を悪化させる新たな要因として浮上している。それを説明するモデルとして提案されたのが、高周波数(数メガヘルツ)の「電子温度勾配不安定揺動(ETGモード)」だ。しかし、ETGモードが異常輸送を引き起こすメカニズムは明らかになっておらず、しかも同モードは帯状流によっても抑制されにくいことが理論的に指摘されている。ETGモードが異常輸送を引き起こす機構を解明し、それを抑制する手法を開発することが現在の核融合のプラズマ閉じ込め研究には必須の課題の1つというわけだ。

研究チームは今回、電子温度の空間勾配を自由に制御できる装置を開発し、電子温度勾配に起因する高周波不安定揺動を能動的に発生させ、密度勾配が存在する時に発生する低周波不安定揺動との非線形相互作用により、高周波揺動のエネルギーが低周波不安定揺動に移送する新たな現象を発見し、そのメカニズムを解明した。この非線形相互作用の解析は、九州大学応用力学研究所および核融合科学研究所と共同で実施された形だ。

実験は、画像1に示されているように、東北大の「直線型磁場印加プラズマ装置」を用いて行われた。マイクロ波を用いた「電子サイクロトロン共鳴放電」による高電子温度のプラズマと低電子温度の熱電子を制御して重ね合わせることで、電子温度を(半径方向に)空間的に変化させて、電子温度勾配(ETG)を容易に形成することに成功したのである。

画像1。電子温度勾配を発生させる実験装置

研究チームがこの電子温度勾配を少しずつ増加させていったところ、電子温度勾配に起因する高周波数の不安定揺動(ETGモード)が発生し、画像2に示されているように電子温度勾配の増加と共に揺動強度も増大していった。しかし、電子温度勾配がある閾値(1.2eV/cm)を超えるとETGモードの揺動強度は飽和し、代わりに低周波数の「ドリフト波モード」の揺動強度が増大することが観測されたのである。

この時、周波数が100倍以上異なる2つの不安定揺動間の相関を、研究チームが「バイスペクトル解析」を用いて求めたところ、画像3に示されているようにETGモードとドリフト波モード間の非線形相互作用の度合いを示す「バイコヒーレンス」の値が、ETGモードが飽和し始めると同時に急激に増大することが判明した。

画像2(左):電子温度勾配を変化させた時の ETGモード(0.4MHz)とドリフト波モード(7kHz)の揺動強度の変化。画像3:電子温度勾配を変化させた時の非線形相互作用を示すバイコヒーレンスの変化

これらの結果から、電子温度勾配によって発生したETGモードの揺動強度が閾値を超えることでドリフト波モードとの非線形相互作用が助長され、高周波不安定揺動のエネルギーが低周波不安定揺動に移送することでドリフト波モードを増幅したと考えることができるという。

つまり今回の実験結果により、電子温度勾配によって発生した高周波不安定揺動も低周波不安定揺動を経由してプラズマ閉じ込め性能を悪化させる原因であることを実証したというわけだ。今後、この高周波不安定揺動を抑制する手法を開発することでプラズマ閉じ込め性能を向上させ、核融合炉の実現に大きく寄与することができるとしている。