富士通研究所とFujitsu Laboratories of Americaは9月10日、屋内無線通信を大容量、高品質化するLTEフェムト基地局において、フェムト基地局が周辺環境を検知して電波干渉を自動的に低減する技術を開発したと発表した。

フェムト基地局は、従来のマクロ基地局と同等の最大通信速度を実現できる小型の携帯電話基地局であり、屋内に設置することで、端末は屋外のマクロ基地局と通信を行う必要がなくなり、通信品質が向上する他、少人数で無線帯域を占有できるため、通信速度の飛躍的な向上(10倍以上)が期待できる。このため、携帯電話の電波が届かないエリアに設置する不感地対策に加え、通信混雑時のトラフィック急増対策としても期待されている。

図1 富士通から製品化されているフェムト基地局「BroadOne LTE フェムトセル」

従来、マクロ基地局は綿密なセル設計に従い、マクロ基地局間での電波干渉が生じないように設置位置などが決められてきた。しかし、フェムト基地局は綿密なセル設計を行わずに利用者宅内に設置でき、数が多いことから電波干渉を低減するのは困難だった。そのため、フェムト基地局同士が近接する場合や、マクロ基地局が近接する場合などでは、電波干渉の影響により通信性能が劣化するという問題があった。干渉では、フェムト基地局に接続された端末(フェムト端末)と近隣宅のフェムト基地局間での干渉、フェムト端末と近傍のマクロ基地局間での干渉、マクロ基地局に接続した端末(マクロ端末)と近傍のフェムト基地局間での干渉が考えられる。

図2 フェムトセルの干渉問題

今回、フェムト基地局が自立的に周辺の環境を検知して送信タイミング、送信電力、送信周波数帯域を調整することで各種の電波干渉を自動的に低減する技術を開発した。

具体的には、まず周辺環境を測定する。フェムト基地局が、周辺のマクロ基地局の情報、マクロ基地局に接続されたマクロ端末の情報、隣接するフェムト基地局の情報、自基地局に接続された端末の情報を取得する。

次に、タイミングを制御する。マクロ基地局の情報に基づいて、マクロ基地局の信号の送信タイミングに合わせて、フェムト基地局の信号の送信タイミングを設定。これにより、データチャネルの割り当てに用いられる制御チャネルとデータ通信に用いられるデータチャネルを分離し、制御チャネルの干渉を抑制する。

さらに、送信電力を制御する。自基地局に接続された端末情報に基づいて、通信品質が悪い場合は、制御チャネルの送信電力を大きくすることで制御チャネルの品質を確保。これにより、端末の安定的な接続を実現する。

最後に、送信帯域を制御する。隣接するフェムト基地局の情報や、近隣のマクロ基地局に接続されたマクロ端末の情報を基に、各基地局間の干渉を避けるために、データチャネルの送信帯域を分割。これにより、データチャネルの品質が向上し、通信速度を向上することができる。

この動作を一定間隔で繰り返すという。

図3 開発した技術の説明図

シミュレーションで効果を検証した結果、電波干渉が大きい場合に通信速度が従来に比べ約2倍に向上することを確認した。また、大きな干渉により従来通信が不可能であったマクロ端末の通信が可能になることを確認した。同技術により、詳細な位置決定やパラメータ調整を行わずにフェムト基地局を設置しても、周辺の屋外ユーザーに悪影響を与えることなく、大幅な通信速度の向上が得られる。これにより、自宅で無線による高画質の動画再生や、オンラインゲームなどのアプリケーションのスムーズな動作が可能になるとしている。今後は、2013年度の実用化を目指して、開発した干渉制御技術の機能や性能の検証を進めるとコメントしている。