北海道大学(北大)は9月6日、紫外、可視、近赤外領域の広い波長域で光電変換可能な金ナノ構造/酸化チタン電極の作製に成功し、光電変換に加え、人工光合成系の実現においてもっとも重要な水の光酸化に関して、可視光だけではなく近赤外光によって酸素と過酸化水素を発生させることが可能であることが確認されたと発表した。

同成果は、同大電子科学研究所の三澤弘明 教授、上野貢生 准教授らによるもの。詳細はNature Publishing Groupの材料研究者、技術者、化学者、物理学者、ナノテクノロジー研究者を対象とするオープンアクセスジャーナル「NPG Asia Materials」に掲載された。

地球環境の保全とエネルギー問題の解決法として、光をエネルギー源・駆動源として活用することに期待が集まってきている。そうした光子の有効利用として、反応系に投入された光エネルギーを余すところなく利用する「光反応場」の構築が求められるようになっている。

研究グループの今回の研究もそうした取り組みの1つで、透明な半導体として知られる酸化チタン単結晶基板上に、光アンテナ構造としてナノ構造(100nm×200nm×30nm)の金を高密度に配置する形で電極(作用電極)を作製、対極に白金電極を、参照電極に飽和カロメル電極をそれぞれ用いて光電気化学測定を行ったという。

その結果、紫外、可視、近赤外の幅広い波長域において光電流が観測された(光電変換)ほか、酸化チタン電極から酸素と過酸化水素が発生することが実験的に立証された。この酸素や過酸化水素の発生は、水の光酸化に基づいたものであり、光電流量から見積もられた物質量(モル)とほぼ等量の酸素や過酸化水素の発生が観測され、実際に化学量論的に水の光酸化反応が進行していることが示された(いずれの波長域でも発生効率は80%以上)。

その原理について研究グループでは、金の電子が光アンテナによって効率的な集められた光子によって高いエネルギーレベルまで励起され、酸化チタンへの電子移動と形成された複数の正孔が水の酸化反応を誘起しているものと考えられると説明。

また、一般的に水の酸化反応は4電子または2電子反応であるため過電圧を要し、可視光照射でも容易ではなかったが、今回の研究では、よりエネルギーの小さい波長1000nmの近赤外光照射(1.24eV)においても、水の酸化反応が進行することを確認。水の電気分解は1.23Vで生じるため、今回の成果は極めて小さい過電圧で水の光酸化が起こることを実証したことになるという。

植物の光合成が波長660nmの光で水の酸化反応を行っていることを考えると、この結果は、これまでエネルギーが低すぎて使われてこなかった赤外光を有効利用し、電気エネルギーや貯蔵可能な化学エネルギーに変換可能な光-エネルギー変換系への応用展開の実現に向けた道を切り開くものであり、研究グループでは今後、太陽光の幅広い波長域に対応した高い光電変換効率を有する太陽電池の創成や人工光合成への展開が期待されるとコメントしている。

左は光電変換効率の波長依存性および光電流量に対する酸素、過酸化水素発生効率の波長依存性(棒グラフ)。右は光照射に基づいて金ナノ構造から酸化チタンへの電子移動と形成された正孔による水の酸化反応に基づいて酸素が発生する様子を記した模式図