住友商事と大阪大学は9月6日、難治療性のがん治療向けに、ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)として、低被ばくで病院に併設可能な実用的な装置の開発に成功したと発表した。

BNCTは、ホウ素の中性子と反応しやすい性質を利用し、ホウ素を取り込んだがん細胞に中性子を照射することにより、がん細胞のみを選択的に内部から破壊する腫瘍選択性のある粒子線治療(放射線治療の1種)で、従来の標準的な治療では治療が困難な、悪性度の高い脳腫瘍、悪性黒色腫、治療法のない再発頭頸部がん、悪性中皮腫などで優れた効果を示すことが確認されており、これまでは国内の医療用原子炉やMIT研究炉、フィンランド研究炉において研究が行われてきたもので、実際の病院での実運用に向けた実用的な装置の開発が求められるようになっている。

研究グループはこれまで、液体リチウム方式によるBNCT装置の実用化に向けた研究・開発を進めてきており、今回の実用機プロトタイプモデルについて、バーミンガム大学において性能評価試験を実施した結果、治療に必要な中性子線量を十分に得ることができ、かつ不要な放射線による被ばくが低いことを確認したとする。

中性子線の発生には固体のベリリウムを使用する事例があるが、研究グループでは、液体リチウムを使用することで、BNCTに最適な低速中性子線を得ることに成功しており、それにより人体への全身被ばく量を、地上の自然放射線量の年間最高値と同程度に抑えることができることが示されたという。この結果、正常細胞に与える影響を極小化できるようになるため、複数照射や適用可能な患者の範囲を広げることが期待されるとコメントしている。

なお、研究グループでは今後、BNCT設置を考える国内の病院と協力し、2014年に実用1号機の製造を開始し、2016年頃には、許認可申請を行う予定とするほか、欧米の病院や大学とも協力し、欧米医療機関への許認可取得も視野に入れ、液体リチウム方式によるBNCTの確立を目指していくとしている。

実用1号機の完成予想図

プロトタイプのターゲットおよびモデレータ

プロトタイプの加速器