量子コンピュータの実現に一歩前進 - 東工大、核スピンの制御技術を開発

 

東京工業大学(東工大)は9月3日、単一のYb原子を、99.997%の高い反射率をもつ2つの鏡の間にいれ、共振器QED効果を誘起することで、原子中の核スピンの状態を、高速かつ高効率で読み取ることに成功したと発表した。

同成果は同大大学院理工学研究科物性物理学専攻の上妻幹男教授らによるもの。詳細は「Physical Review A」に掲載された。

量子コンピュータの理想的な量子ビットとして、電子スピンに比べて、磁気モーメントの大きさが1/2000と小さく、迷走磁場の影響を受けにくく長時間、量子情報を保持することが可能な「核スピン」があげられる。しかし、その一方で、情報を高速、かつ高効率で読みだすことが難しいという課題もあった。

今回、研究グループは、「レーザー冷却」により、あらかじめYb原子の温度を10μKのオーダーにまで冷やした後、光定在波によって作り出される周期的なポテンシャルの中に単一のYb原子をのせ、ベルトコンベヤーの要領で、原子を高反射率をもつ鏡によって構成された光共振器の中へと輸送。それと同時に、核磁気共鳴(NMR)技術を応用することで、原子中の核スピンの状態を自由に制御できる技術を開発した。

この技術を用いることで、原子の2準位を利用すると、核スピンの情報を読み出す瞬間だけ電子スピンの情報にマップすることが可能となり、結果として核スピンがもつ長いコヒーレンス時間を保ったまま、情報の読み出し時だけ、高速、かつ高効率で行うことが可能になったという。実際の試験では、読み出し時間500μs、読み出し効率98%を実現できることが確認されたという。

また、高速の情報読み出しが可能になったことで、量子トモグラフィーの手法により、核スピンの量子状態を完全に決定することが可能となり、その結果、行われた核スピン制御が、忠実度0.98、純粋度0.96という理想的なものであったことが判明したほか、核スピンがもつ量子情報が、T1=0.49s、T2=0.10sという長い時間保持されていることも判明したという。

なお、今回の結果について研究グループは、大規模な量子計算を実現する上で十分な値といえ、今後、2次元光定在波ポテンシャル中に、碁盤の目のように原子をトラップし、それらの間に量子エンタングルメントを形成することで、量子計算を実現できる可能性が高まったとコメントしている。

移動光格子を使って、冷却原子雲の中から、単一のYb原子を光共振器へと輸送する。共振器中の単一原子に励起光を照射すると、Purcell効果によって、原子は自由空間ではなく、共振器モードに光子を放出する。この光子を検出することで、原子の核スピン状態を読み取ることができる。さらに、共振器をとりまくコイルを使って原子にRF磁場を照射することで、核スピンの状態を自由に制御することも可能となる

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