画像はイメージです

昨今、世間を騒がせている「ブラック企業」の特徴の一つに「低賃金」があるが、このほどハーバード大学の経済学者によって、「貧困は人の認知能力を低下させる」という趣旨の研究が報告された。

貧困状態は、毎晩の徹夜作業並みに認知力を下げる

研究はハーバード大学の経済学者であるSendhil Mullainathan氏を中心にして行われた。研究チームは、アメリカとインドで2種類の研究を実施。同氏は、一連の研究結果を受けて、「貧困でいることは、毎晩に及ぶ徹夜作業をしているようなものだ」という独特の言い回しで、貧困状態と認知力低下の関係性を表現している。

金銭的不安が喚起されると、貧困層はIQテストのスコアが悪くなる

1つ目の調査は、アメリカ・ニュージャージーのショッピングモールで実施した。

400人の買い物客(平均生活収入は7万ドルで、最も低い人で2万ドル)を半分に分け、上位を「金持ち」グループ、下位を「貧乏」グループとし、IQテストを行ってもらった。

研究チームはIQテスト前に、いくらかの参加者に「費用が安い(もしくは高い)車の修理にはどう対応しますか」などの質問をすることで、金銭的不安をあおった。その結果、修理費用が安いときには、「金持ち」「貧乏」の両グループで、IQテストは等しいパフォーマンスだったが、修理費用が高いときには「貧乏」グループのみ、「まるで徹夜でもしたかのように」ひどいスコアだったという。

画像はイメージです

貧乏状態は、IQが9~13ポイントほど下がっている状態?

2つ目の調査は、インドの田舎であるタミル・ナードゥ州にて行われた。同地域に住むサトウキビ農家は、年に1度の収穫のみで収入を得ている。そこで、研究チームは460人のサトウキビ農家に、収穫前(擬似的貧乏状態)と収穫後(擬似的金持ち状態)の2回、数値知能テストに回答してもらったという。

すると、農家たちは軒並み収穫前(擬似的貧乏状態)のスコアの方が悪かった。モールと農家の両研究において、「貧乏状態」にあると、9~13ポイントのIQ低下と同等の状況が引き起こされることが示唆されたという。

テストの回答時間や栄養状態などの他の要因では、認知能力の改善が得られなかった。また、農家たちは収穫前に高いストレス状態にあったが、多くの研究ではストレスが認知能力を高めること報告されており、テストのパフォーマンスの低さの説明にならないという。

Mullainathan氏は「何かが不足しているとき、その人の心はその物のみを考えるようになる」と話し、不足している対象物が脳のキャパシティの多くを“占領”することが認知能力の低下を招くことを示唆。それは今回のようなお金だけではなく、時間や食料にも適応されるとしている。

「貧すれば鈍する」ということわざがあるが、今回の研究はそれを科学的に裏付ける形となった。