東京工業大学(東工大)は、二酸化炭素の分子を室温で選択的に吸着し、分解することが可能な物質を発見したと発表した。

同成果は同大の細野秀雄 教授、戸田喜丈 特任助教、ロンドン大学(University College London)のPeter Sushko博士らによるもの。詳細は英科学誌「Nature Communications」に掲載された。

二酸化炭素を削減する方法の1つとして、化学的に二酸化炭素を分解する手法があり、海洋や地中に貯蔵する物理的手法や光合成による生物的手法と比較して広大な土地が不要なほか、二酸化炭素の再資源化が可能といった利点などから注目されている。しかし、二酸化炭素は無極性分子であり、完全参加されているため反応性は低く、高温・高圧や、水素などの還元剤の使用なしでは、その分解が困難であることが知られており、実用性の高い技術の実現が求められていた。

研究グループが注目したアルミナセメントの構成成分の1つである「12CaO-7Al2O3(12A7)」は、内径0.4nm程度のカゴ状の骨格が面を共有してつながった構造をしている。このカゴには1/6の割合で酸素イオンが含まれており、これまでの研究から、そのカゴの中の酸素イオンをすべて電子に交換できることが報告されており、その酸素イオンがすべて電子に置換されたC12A7(C12A7エレクトライド)が金属のように電気をよく流し、電子を外部に与えやすい性質を持ちながら化学的にも熱的にも安定で容易に取り扱うことができることも判明している。

C12A7の結晶構造。ナノメートルサイズのカゴから構成されており、カゴの内部には酸素イオン(青:O2-)が入っている。C12A7エレクトライドでは、カゴの内部に酸素イオンの代わりに電子(緑:e-)が入っている

今回の研究では、C12A7エレクトライドを酸素、窒素、水素、一酸化炭素、二酸化炭素雰囲気にそれぞれ室温で暴露すると二酸化炭素の吸着量がその他の気体の場合と比較して短い暴露量で飽和量に達することが判明したという。

C12A7エレクトライドにいろいろなガスを暴露した際の暴露量と吸着量の関係。少ない暴露量にも関わらず、二酸化炭素が他のガス種よりも選択的に多く吸着することが確認できる

これはC12A7エレクトライドが二酸化炭素を選択的に吸着していることを意味すると研究グループでは説明するほか、二酸化炭素を飽和量吸着させたC12A7エレクトライドを加熱し、脱離してきた化学種を調べたところ、二酸化炭素を吸着させたにも関わらず、脱離してくる主要な化学種が一酸化炭素であることが判明。この結果、C12A7エレクトライドに吸着した二酸化炭素が一酸化炭素に分解されることが示されたという。

二酸化炭素を飽和量吸着させたC12A7エレクトライドを加熱した際の脱離する物質。一酸化炭素が主であることが確認できる

また、この二酸化炭素の分解による一酸化炭素の脱離開始温度は200℃以下と比較的低温であることから、二酸化炭素はC12A7エレクトライド表面に吸着した直後に一酸化炭素と酸素に分解していることが示唆されたとのことで、第一原理計算を行った結果、C12A7エレクトライド表面では二酸化炭素分子はそのまま吸着するよりも一酸化炭素と酸素に分解して吸着する方がエネルギー的に安定であることが示されたとする。

第一原理計算によるC12A7エレクトライド上での二酸化炭素分解のメカニズム。C12A7エレクトライドの表面で二酸化炭素の分子に電子が供給され、一酸化炭素と酸素に分解する

今回の成果を受けて、研究グループでは、C12A7エレクトライドが選択的に二酸化炭素を吸着する性質を活用することで、排ガスなどに含まれる二酸化炭素の除去などへの応用が期待されるとするが、二酸化炭素を分解した際に生成される酸素が、一酸化炭素と比較してC12A7エレクトライド表面に残りやすいことが実用化に対する課題となるともしており、今後、酸素を消費する別の化学反応と組み合わせることで、C12A7エレクトライド表面に残った酸素を取り除くことが可能になれば、触媒的な二酸化炭素の分解が実現されることが期待できるようになるとコメントしている。