「グーフィー遺伝子」と緑色蛍光タンパク質遺伝子をつないで発現させた遺伝子改変マウス(胎生15日目)。
緑色蛍光は嗅上皮の嗅細胞や鋤鼻感覚細胞に集中し、他の組織や臓器ではみられない。
(提供:理化学研究所)

五感のうちでも嗅覚は、多くの生物にとって、食べ物探しや危険の察知、繁殖行動の誘発などの生命活動にとくに重要な役割を果たしている。理化学研究所は、こうした嗅覚を鋭敏に働かせているタンパク質をマウスの嗅細胞で発見した。生物における匂いの情報伝達や嗅覚障害の分子メカニズムを解明する手掛かりになるという。

理化学研究所・脳科学総合研究センターのシナプス分子機構研究チーム(吉原良浩チームリーダー、後藤智美テクニカルスタッフら)は、マウスの鼻腔奥の嗅上皮にある匂いの感知に関わる組織を調べ、そこで働く12種類の新しい遺伝子を発見した。そのうちの1つの遺伝子が作るタンパク質が、匂いを感受する嗅細胞とフェロモンを感受する鋤鼻(じょび)感覚細胞で強く発現していた。さらに、このタンパク質は嗅細胞の中でも、膜たんぱく質や分泌タンパク質などの物質輸送に関わる小器官「ゴルジ体」に局在していることから、このタンパク質をゴルジ体にちなんで「グーフィー(Goofy)」と名付けた。

このグーフィー・タンパク質を作る「グーフィー遺伝子」に、緑色の蛍光を放つタンパク質遺伝子をつないだ遺伝子改変のマウスを作り調べたところ、蛍光はマウスの鼻の嗅細胞と鋤鼻感覚細胞だけで観察され、体の他の組織や臓器では全く確認できなかった。

グーフィー遺伝子を欠損させたマウスでは、鼻腔表面に広がる繊毛(じゅうもう)が通常より短くなり、匂いの情報を電気信号に変える過程で働く酵素が異常な場所に存在していた。また、天敵であるキツネのふん由来の匂い分子「TMT」を嗅がせたところ、高濃度のTMTに対しては正常マウスと同様にすくんだり、避けたりしたが、低濃度のTMTには、こうした忌避(きひ)行動は見られず、反応が鈍くなったという。

研究は、文部科学省科学研究費補助金・特定領域研究「細胞感覚」、およびJST戦略的創造研究推進事業・ERATO型研究「東原化学感覚シグナルプロジェクト」の一環として行われた。研究論文“Goofy Coordinates the Acuity of Olfactory Signaling”は米国の科学雑誌『ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(The Journal of Neuroscience)』(オンライン版、7日)に掲載された。