東北大学は、若年で発症する膵炎の新規原因遺伝子として、膵消化酵素の一種である「carboxypeptidase A1(カルボキシペプチダーゼA1)(CPA1)」の遺伝子変異を同定したと発表した。

同成果は同大大学院医学系研究科消化器病態学分野の正宗淳准教授と独ミュンヘン工科大学(Technische Universitat Munchen)、アメリカ合衆国ボストン大学(Boston University)などで構成される国際共同研究グループによるもの。詳細は、「Nature Genetics」オンライン版に掲載された。

膵炎の発症要因としてはアルコール性のものが最も多いが、2割弱の症例は原因不明となっており、その中でも若年発症の症例の多くは遺伝子の異常が背景にあると考えられるようになっており、これまでの研究から、膵炎の原因となる遺伝子異常として、膵消化酵素「トリプシン」の働きに関係するものが報告されていたものの、大部分の症例では原因遺伝子異常は明らかになっていなかった。

これまでの研究では、遺伝子異常により消化酵素(トリプシン)活性化・不活性化のアンバランスがおこることで膵炎になるとされていた

今回の研究では、欧州、米国、インド、日本の合計43施設が協力する形で、合計2021名(うち日本人は247名)の非アルコール性慢性膵炎患者と健常者6975名において、膵臓の消化酵素のうち約17%を占める、タンパク質分解酵素「CPA1」の遺伝子変異解析を実施。その結果、非アルコール性慢性膵炎患者の2.3%に、機能異常を引き起こすCPA1遺伝子変異が見つかり、中でも20歳までに膵炎を発症した患者では4.6%、10歳までに膵炎を発症した患者では9.7%に機能異常をおこすCPA1遺伝子変異が認められたという。

この発見は、従来の膵炎発症メカニズムとして報告されていたトリプシンの過剰な活性化や、トリプシン活性の暴走を防ぐ安全機構がうまく働かない結果、トリプシンの活性化・不活性化のアンバランスが生じてことによるものとはまったく異なるメカニズムにより膵炎が発症することを示すものとなる。具体的には、遺伝子変異により生成された変性タンパク質では、正常に折りたたまれた高次構造をとることができず、小胞体ストレスと呼ばれるストレスを膵臓の細胞に与えて膵炎を発症することになるという流れが考えられると研究グループでは説明しており、同成果をもとに今後研究を進めていくことで、新しい膵炎治療法の開発などにつながることが期待されるとコメントしている。

今回の研究から、異常タンパク質の蓄積により小胞体ストレスが生じ、膵炎が誘導されることが明らかになった

CPA1遺伝子に異常が発生していると、変性タンパク質が正常に折り畳まれないため、膵腺房細胞内の小胞体にストレスを与え、膵炎を発症する