国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は8月9日、ミトコンドリア病の一種である「MELAS(メラス)」に対し、米エジソンが開発したミトコンドリア病治療剤「EPI-743」を用いた臨床研究を、同社と共同で開始し、8月中旬にも最初の投与を行う予定であると発表した。

ミトコンドリア病は、細胞内の小器官であるミトコンドリアの機能低下がもたらす病気の総称で、MELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes)は中でももっとも患者数が多く、脳卒中様症状を特徴とするほか、脳以外にも筋肉(疲れやすい、筋力低下)、心臓(心筋症)、ホルモン(低身長、糖尿病など)など、さまざまな症状を合併することが知られている。また、MELASの診断基準は世界的にも確定していないため、正確な患者数は不明ながら、英国とフィンランドの統計では、10万人に4~6人とされているほか、日本での患者数は500~800人程度と推測されている。

こうしたミトコンドリア病に対しては、ミトコンドリア機能を回復させることを目的としたさまざまな治療薬が試みられており、MELASにおいても、脳卒中発作を契機に症状が重篤化することが多いため、発作の予防が重要であるとの考えから、血管を拡張させる効果があり、発作予防に有効であるとされる「アルギニン」が臨床試験を経て、承認申請が行われる予定となっている。また、タウリンの大量投与で7年間発作がなくなった症例も報告されていることから、医師主導治験が実施予定となっている。

今回の臨床研究で用いられるEPI-743 は、エネルギー産生に係わる経路にあるタンパク質「NADH-キノン酸化還元酵素」のはたらきを高めると考えられており、すでにミトコンドリア病の重篤な臨床病型であるリー脳症に対する臨床試験で効果があるとの報告が欧米で出ており、今回の研究から、日本人におけるEPI-743の薬物動態や、MELASの臨床症状に効果があるかどうかが調べることとなる。

治験参加者は、国立精神・神経医療研究センター病院の神経内科、小児神経科にて継続的に診療を行っている患者や、全国の病因からの依頼で行ってきたミトコンドリア病患者の確定診断のほか、東京都、千葉県、神奈川県などの近隣病因に通院している患者などを中心に約10名が参加する予定。なお臨床研究の期間は、2013年8月から2014年3月の間を予定しているという。