渡良瀬川上流の渓谷に沿って走るわたらせ渓谷鐵道。写真は昨年登場した「トロッコわっしー号」

今夏も猛暑と言われているが、涼風とリフレッシュを求めるなら「鉄旅」という選択もある。以前、マイナビニュース会員に行った「一度は乗ってみたいローカル線」の第3位に選ばれた「わたらせ渓谷鐵道」は、夏に癒やしを求めるスポットにもピッタリ! 加えて都心からもアクセスしやすいと来たら、これは乗らないわけにはいかない!?

清流を眼下に走り抜ける

わたらせ渓谷鐵道はその名前の通り、山の木々と澄んだ川の流れが美しい渓谷沿いを走る鉄道だ。桐生駅(群馬県桐生市)~間藤(まとう)駅(栃木県日光市)まで17駅、営業キロ数44・1km。もとは、足尾銅山で産出された銅の輸送を目的につくられた鉄道(1911年足尾鉄道として開業し、1918年に国有化)で、1989年からは第3セクターのわたらせ渓谷鐵道として営業し、観光サービスに力を入れている。

「トロッコわたらせ渓谷号」の出発駅は大間々駅

周遊するには1日フリー切符(大人1800円)が便利。トロッコ列車は整理券(500円)を購入

現在、トロッコ列車は2種類。「トロッコわっしー号」は通年、「トロッコわたらせ渓谷号」は11月まで、どちらも週末を中心(8月と紅葉シーズンは平日運行も)に運行している。

今回は、ディーゼル機関車で4つの車両(うち2両がトロッコ車両)をけん引するトロッコわたらせ渓谷号をチョイス。トロッコわたらせ渓谷号は大間々(おおまま)駅~足尾駅間を1日1往復しており、銅山をイメージした銅色のトロッコ車両が特長だ。車内は木のテーブルと椅子が並んでおり、ナチュラルな内装がまたいい。

ディーゼル機関車が銅(あかがね)色の車両を牽引するトロッコわたらせ渓谷号

いよいよ大間々駅を出発! メロディアスな発車サウンドが流れ、車内の雰囲気は高揚感に包まれる。外の景色は大間々の街から住宅地に変わり、ほどなくして渓谷が目の前に開ける。そして、木々の鮮やかな緑と渡良瀬(わたらせ)川の清流がどこまでも続く。足尾鉄道時代には長いトンネルや橋梁(きょうりょう)を設置する技術がなかったため、渡良瀬川沿いに蛇行する線路を敷設したそうだが、それが功を奏して、約100年後の現在も絶景が多くの人を魅了する観光鉄道となっている。

わたらせ渓谷鐵道からは、木々と渡良瀬川清流のコントラストが美しい景色が楽しめる

また、沿線の38施設が国の登録有形文化財であることも大きな魅力のひとつ。大間々駅や上神梅(かみかんばい)駅、神戸(ごうど)駅などの木造駅舎やプラットフォーム、待合所、そしてトンネルや橋梁など足尾鉄道時代をしのばせる施設は、かつて近代化を目指してひた走っていた日本の空気を感じることができる。

沿線には国の登録有形文化財となった施設が38も。1912年に建てられた上神梅駅の駅舎とプラットホームもそのひとつ

駅弁タイムの後は銀河タイムへ

トロッコ列車では、車内での時間が一層楽しくなるちょっとした工夫が随所になされている。アテンダントや車掌が列車からの見どころを案内し、人気スポットの通過時には時折、列車の走行スピードを緩めてくれるのもうれしい配慮だ。また、カートで各席を回って鉄道グッズを販売しており、その説明を聞きながらのグッズ選びもワクワクする。

「やまと豚弁当」(1,000円)は映画「僕達急行 A列車で行こう」にも登場

ホームからも販売。この日人気だったのは冷やしたキュウリ

さて、そろそろ駅弁を開いてみようか。トロッコわたらせ渓谷号では、大間々駅発車時に車内で「トロッコ弁当」(1,000円)と「やまと豚弁当」(900円)が販売される。トロッコ弁当は、きのこご飯とボリュームたっぷりのマイタケ天ぷらをメインに、山の恵みを堪能できる。

大好評のイルミネーション。長いトンネル走行も幻想的な時間に

一方、やまと豚弁当は、群馬県の牧場で飼育された柔らかな豚肉がご飯の上に敷き詰められている。包装紙の裏には沿線の観光案内が記されている上、オリジナルのてぬぐいも付いており、「鉄旅」心を更に盛り上げる。ちなみに、神戸駅には古い特急車両を活用したレストラン「清流」があり、ここでも駅弁の購入ができる。

神戸駅を発車すると、「お待たせしました!」のアナウンス。この先は5,242mという長さの草木トンネル内を走行するため、その約10分間は銀河を思わせるイルミネーションが天井を彩る。これを楽しみに乗車する人も多いそうだ。

トンネルを抜けると、一層山へ奥深く入った感が強まる。やがて、足尾銅山が閉山するまで使用されていた通洞選鉱所や、現在も住民が生活する中才鉱山住宅、発電所や変電所など、近代化産業繁栄の数々の遺産が線路の両側に見えてくる。通洞(つうどう)駅で降りて5分ほど歩くと、「日本一の鉱都」と呼ばれた足尾銅山の坑道を見学できる「足尾銅山観光」がある。歴史的な背景を知ることも、わたらせ渓谷鐵道をより理解することにつながるだろう。

坑道などが見学できる「足尾銅山観光」。1973年に銅山が閉山し、1980年から坑道の一部を観光施設として公開している。坑道内へはトロッコで移動

「トロッコわっしー号」には遊び心が満載

大間々駅を出発して、約1時間40分。終点の足尾駅から乗り換えて、沿線の終着駅である間藤駅まで行ってみた。間藤駅の標高は636mで、大間々駅からは450mほども上がってきたことになり、空気がひんやりとしている。かつてはこの先、足尾本山駅まで続いていたため、朽ちた枕木をたどりながら廃線跡の一部を歩くこともできるのだ。

わたらせ渓谷鐵道の終点・間藤駅。紀行作家の宮脇俊三が国鉄完乗して、最後に降り立った駅としても有名

草に埋もれた廃線跡を歩いてみるのも一興だ

帰路はもうひとつのトロッコ列車、2012年4月に登場したトロッコわっしー号に乗車。こちらは1日2往復(冬期は1往復)で、桐生駅~間藤駅(帰路の1便は大間々駅まで)間の運転となる。レトロな風情のトロッコわたらせ渓谷号とは全く異なるコンセプトで、わたらせ渓谷鐵道のキャラクター「わ鐵のわっしー」のモチーフでいっぱいの楽しい電車だ。

トロッコわっしー号もよし、夏を爽やかに過ごすならトロッコわたらせ渓谷号もよし! 風に吹かれながらのトロッコ列車の旅を是非満喫してほしい。