屋台のおでん鍋の横に、いなり寿司と並んでぼたもちが

もち米をあんでくるんだぼたもち。別名「おはぎ」とも言い、お彼岸に仏様にお供えされる。ところが北九州では、お彼岸に関係なく一年中ぼたもちがよく売れ、うどん店や屋台でも大人気という。北九州市民はみんな甘党なのか?

うどん屋なのに、ぼたもちが1日に6,000個も

早速、北九州市内のぼたもち事情をウォッチング。まず訪ねたのは、北九州市を中心に35店舗を展開するうどんチェーン店「資(すけ)さんうどん」だ。店頭を見てほしい。うどん店のメニューとしては違和感があるぼたもちが、堂々の看板商品となっている。

うどんと並んで目玉商品となっている「資さんうどん」のぼたもち

しかも、店内でも食べられるのに、ほとんどの客は持ち帰り用のパック入りぼたもちを購入する。中には、わざわざぼたもちだけを買いに来る客もいて、店舗によっては夕方に売り切れることもしばしばだ。チェーン店全体で1日平均6,000個が売れ、お彼岸シーズンともなると売上数は15万個にも及ぶというからすごい。

ところ変わって屋台。屋台といえば酒がつきものだが、北九州市小倉の丹過(たんが)市場にある屋台は酒を出さない。酒は客が各自持ち込み、おでんや煮込みなどを注文するのが昔からのスタイルだそうで、カウンターの上には違和感なくぼたもちが並んでいる。

お店の人によると、ぼたもちは客が飲んだ後にひとつふたつ食べるとか。また、ふらりとやって来ては10個20個とまとめ買いする中年男性もいて、女性より男性が買って行くパターンが多いという。

10月10日はぼたもちの日!?

パッケージがおしゃれな「北九州ぼたもち研究会」の「キタキューぼたもち」(126円)

なぜ、そんなにぼたもちが人気なのか。市民団体「北九州ぼたもち研究会」の中村秀規さんに事情を尋ねてみた。かつて工場や炭坑で栄えていた北部九州では、労働者の疲れを癒やす甘い物が歓迎され、まんじゅうなどを売る和菓子店が多かった。

小倉界隈では、大ぶりであんがたっぷりのぼたもちが特に人気で、24時間態勢で働く労働者が深夜や早朝に関わらず、屋台などでぼたもちをほおばっていたという。そんな歴史から、ぼたもちは一年中手軽に食べられる間食として定着。ぼたもちを見ると、つい条件反射的に買ってしまう年配客が今も多いという。うどん店でぼたもちが売れるのも、市民にとってなじみ深いことが理由だ。

そんな事情を教えてくれた中村さんは、地元で長年続く和菓子店の店主。今まで当たり前のようにぼたもちを作ってきたが、ある時テレビ番組で屋台のぼたもちが紹介されたところ、市外はもちろん地元からも大きな反響があったことに驚いたという。

その時、改めて地元の「ぼたもち愛」を確認。街の活性化に生かそうと同志を募って研究会を発足させ、2012年秋の「B-1グランプリ」開催中、場外で「キタキューぼたもち」として実演販売した。すると大盛況で、これに勢いを得て、「一」が箸に「○」がぼたもちに見えることから10月10日を「ぼたもちの日」に制定。ぼたもちの魅力を発信していくことにした。

「B-1グランプリ」で実演販売。ぼたもちは広く再評価された

タケノコや七夕のぼたもちも登場

そして現在は「キタキューぼたもち」の他、特産品の合馬(おうま)タケノコを使った「タケノコぼたもち」、ユズ風味あんの「柚子ぼたもち」など、季節限定ぼたもちをイベント出張などで販売している。

ちなみについ先日まで、同研究会事務局の中村さんが営む「ひですけ餅本舗 中村屋」では春の祝いぼたもちを販売していたが、6月後半からは七夕の季節ということで織姫ぼたもちと彦星ぼたもちを販売している(共に252円)。

創作に当たっては、織姫はさくらあん、彦星は抹茶あんで上品な味わいに仕上げただけでなく、米にもこだわった。使っているのは、平尾台(福岡県北東部に位置するカルスト台地。最高峰は北九州市小倉南区の貫山)の米どころで栽培されている古代米で、うっすらと紫がかっているのが特徴だ。この米を使った意図を、中村さんはこう説明する。「北九州市には紫川という川があるんですけど、その川をあまのがわに見立てたというわけなんです」。

こちらは「柚子ぼたもち」。ユズをイメージさせるデコレーションも効果的

また、今年の10月10日にももちろん、オリジナルぼたもちを販売するスペシャルイベントを構想中だという(詳細はまだ秘密)。この日は、昨年販売して大人気だったミニトマト入りぼたもち(157円)も販売予定とのことなので、今から楽しみにしておこう。

●information
北九州市観光情報サイト