ルックスや肩書・経済力がそれほどでもないのに、なぜかモテる男

ルックスは平凡か、あるいはそれ以下であるにもかかわらず、なぜか女性によくモテる男というのは、今も昔も決して少なくない。街を歩いていても、たまに「美女と野獣」という表現(失礼)がぴったりのカップルを見かけたりする。男女の関係とは奥が深い。

美女を射止めた男が平凡なルックスだった場合、多くの人はまず彼の肩書や経済力に注目するだろう。本来なら彼の人間的内面を美女が評価したと思いたいところだが、人間とはどうしても下世話な生き物なのか、ついつい邪推してしまうのが現実だ。男が女性に人気のある肩書き(芸能人やスポーツ選手など)を背負っていたり、金を持っていたりするということは、端正な顔立ちに匹敵するくらい女性にモテる要素である。

しかし、世の中とは広いもので、それらにもあてはまらない実に不思議なモテ男もたまにいる。ルックスも悪く、経済力もなく、肩書きも平凡なのに、なぜか女性にモテる。都内の中小企業に勤めるサラリーマンのTが、その典型的な人物だ。

50歳になる節目の年に、なんと4度目の結婚

Tは50歳になる節目の年に、なんと4度目の結婚を果たした。しかも、お相手は26歳の元モデル嬢である。たまたま友人を介して彼女と出会ったTは、そこから猛烈なアプローチを続け、出会いかいら約1年後にようやく口説き落とすことに成功。そして、交際スタートからさらに1年後に、めでたく結婚と相成ったのだ。

それ以前も、Tの女性遍歴は華やかで、実に波瀾万丈だった。20代のころに大学時代から付き合っていた元ミスキャンパスの彼女と初めての結婚に至り、二児をもうけた。その後、Tの浮気が原因で離婚し、30代前半でその浮気相手と再婚。彼女もまた、六本木の高級クラブの人気嬢だけあって、その看板にふさわしい美女だった。

Tのモテ男伝説はそれ以降もとどまることがなかった。40歳を過ぎたころ、またも浮気が原因で二度目の離婚となり、ほどなくして3度目の結婚。彼女もまた、人がうらやむような美女であったのだが、その彼女と結婚生活を送っている間もTの女遊びは一向におさらまず、わずか5年ほどでバツ3となった。そして、先述した4度目の結婚である。

「モテている実感は別にない」--ふられた経験のほうが圧倒的

Tの女癖の悪さは確かに困りものなのだが、それ以上に注目してしまうのは、やはりTのモテっぷりであろう。体型は小太りで、顔立ちも整っているとは言い難く、経済力も平凡なのだが、なぜかTは若いころから異様に女性にモテてきた。しかも、Tは生来の面食いのためか、付き合う相手はみんな一般的な美女ばかりだ。

その秘密をTに訊ねると、彼自身は「女性にモテている実感は別にない」と言う。彼の意識の中では、女性と口説き落とした経験よりも、こっぴどくふられたり、まったく相手にされなかったりした経験のほうが圧倒的に多いらしい。

「そりゃあ、俺みたいなブサイクがいくら熱心に口説いても、女性はなかなかときめきませんよね。自分のことは自分が一番わかっているつもりです」

Tはそう言って、自虐的に笑う。実際、若いころは1年間で最高50人前後の女性に交際を申し込み、全敗したこともあったとか。だから、決してモテるわけではないのだ 。

見逃してはならないのが、1年で最高50人前後の美女に交際を申し込んだこと

ただし、ここで見逃してはならないのが、1年間で最高50人前後の女性に交際を申し込んだという点である。しかも、相手はそろいもそろって美女ばかりだ。

そうなのだ。確かにTは女性にモテるというわけではないのだが、その一方で女性を口説きにかかった回数は普通の男性の平均よりもはるかに多い。つまり、恋愛のバッターボックスに入った打席数が異常に多いからこそ、打率は決して高くないものの、それなりのホームラン数を稼ぐことができた。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、である。

要するに、Tの一番のモテ武器は自分自身の神経の図太さなのだ。普通、世の多くの男性は自分のルックスが平凡であったり、経済力や肩書も特筆すべきものではなかったりした場合、目の前に絶世の美女がいたとしても、ついつい気後れして堂々と口説けないものだ。どうせ自分のような平凡な男が、彼女みたいな高嶺の花にアプローチしても落とせるわけがない。最初からそう高を括って、敵前逃亡してしまう男性は多いはずだ。

しかし、Tはそういう繊細な神経を持ち合わせておらず、いつどんなときでも「当たって砕けろ」の精神で、迷うことなく美女を口説きにかかかる。当然、だからといって簡単に成功するわけではないのだが、それでもごくごくたまに特大ホームランをかっとばすことがある。その稀少な特大ホームランの結果が過去4回の結婚であり、なかでも50歳にして26歳の元モデル嬢と結婚できたことにつながっているのだ。

Tの話を聞くと、結局モテ男の真実とはこういうことなのではないかと思う。ルックスや経済力、肩書きも確かにモテ要素には違いなく、そのほか女性にしかわからない男性のフェロモンや会話のスキルなども重要なのだろうが、それらすべてを包括し、さらに凌駕する最強の女性口説き術とは、恋愛のバッターボックスに入る回数の多さだ。確率は低くとも、分母の数を増やしていけば、分子の数が0のままということはないだろう。

恋愛や結婚においては、たとえ1000敗したとしても1勝さえできれば成功なのだ。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。早稲田大学卒業。これまでの主な作品は「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」「雑草女に敵なし!」「Simple Heart」など。中でも「雑草女に敵なし!」は漫画家・朝基まさしによってコミカライズもされた。また、作家活動以外では大のプロ野球ファン(特に阪神)としても知られており、「粘着! プロ野球むしかえしニュース」「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「野球バカは実はクレバー」などの野球関連本も執筆するほか、各種スポーツ番組のコメンテーターも務めている。

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