新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と昭和電線ケーブルシステム、国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)は6月20日、イットリウム系超電導線材に「ナノ粒子分散型人工ピン」導入技術を用い、高磁場中での臨界電流特性を改善した先進型イットリウム系線材(Nano-Particle Artificial-pinning-center Distributed YBCO:nPAD-YBCO)の長尺製造に成功、低コスト型線材の磁場中特性で世界最高性能を達成したと発表した。

昭和電線ケーブルシステムとISTECは、これまで低コストで高温超電導線材の製造が可能なプロセスである溶液塗布熱分解法を使って性能の向上、長尺化などの開発を共同で行ってきた。その中で、ISTECが開発した「ナノ粒子分散型人工ピン」導入技術は、イットリウム系超電導体の中にナノレベルの非超電導物質を分散させて磁場中の特性低下を防ぐことができるが、原料溶液にナノ粒子の元素を溶かしこみ、熱処理中の反応により微細に分散させるため、長尺線材で均一に実現させることは難しいとされてきた。

そこで今回、昭和電線ケーブルシステムが同技術を移管してもらい、自社の量産方法である電熱バッチ式一括熱処理プロセスで製造が可能になるように改良を加えることで、溶液塗布熱分解法による高温超電導線材において、世界で初めて長尺線材への人工ピン止め点の導入に成功し、高特性を有するイットリウム系超電導線材の製造に成功したとする。

臨界電流密度は液体窒素冷却下・3T中で線材単位断面積1cm2当たり20万A。その際の臨界電流値は1cm幅線材で50Aを超え、溶液塗布熱分解法で作製した長尺線材としては世界最高値となったという。

今回作製に成功した線材の仕様は以下の通り。

  • 基板:イオンビームアシスト蒸着法による結晶粒配向酸化物中間層付きハステロイ基板
  • 超電導層:塗布熱分解法(膜厚2.5μm) Y0.77Gd0.23Ba2Cu3O7-y(超電導)+BaZrO3(人工ピン微粒子:磁場中特性向上に有効)
  • 線材長:130m
  • 臨界電流密度:20万A/cm2液体窒素中、3T(溶液塗布熱分解法による超電導線材における世界最高値)
  • 製造方法:電熱バッチ式一括熱処理プロセス

今回の技術を活用することで、磁場に強いイットリウム系超電導線材を低コストで製造できるようになるため、高磁場を扱う超電導機器の軽量化、コンパクト化が可能となり、超電導機器のメリットを引き出すことが可能になると研究グループでは説明している。

すでに 昭和電線ケーブルシステムでは、「ナノ粒子分散型人工ピン」導入技術を用いないイットリウム系超電導線材を販売しているが、、今回の先進型イットリウム系線材(nPAD-YBCO)も製造準備が整い次第販売を開始する予定。また、今後も先進型イットリウム系線材(nPAD-YBCO)のさらなる特性向上に向けて、研究を継続していくとするほか、新製品として、同線材を使った電流リードの開発も並行して進めているとのことで、今秋販売を開始する計画だとしている。

今回開発された線材の外観(左)と各線材の磁場中特性比較(右)