味の素は6月19日、アミノ酸の一種であるシスチンとテアニンの摂取による過剰な炎症反応による体温上昇(発熱)の抑制効果、ならびに体内で炎症反応が抑制される作用メカニズムを解明したと発表した。

同成果の詳細は、2013年7月4日から東京で開催される「日本外科代謝栄養学会第50回学術集会」で発表される予定。

一般的に、激しい運動や外科手術の後には、身体を治そうとする生体反応として炎症反応が起こることが知られており、この反応が過剰に起こった場合、体温上昇や、免疫機能低下による感染症リスクの高まりなどにより、体調回復が遅れてしまうことがある。

これまでの研究から、シスチンとテアニンには、外科手術後の早期回復やインフルエンザ・風邪などの感染症リスクの低減効果があることが確認されていたが、今回の研究では、発熱に対するシスチンとテアニン摂取の影響などが調べられた。

具体的には、エンドトキシン(内毒素)の一種で、細胞内の酸化ストレスを増大させ、炎症性サイトカインの分泌を促進し、発熱作用を引き起こすことが知られているリポ多糖Lipopolysaccharide(LPS)を、炎症を起こす薬剤としてラットに投与して発熱を起こし、その様子を観察。その結果、シスチンとテアニンを摂取していないラット(コントロール)、摂取したラットともに、LPS投与後に体温の上昇が見られものの、摂取ラットでは、非摂取のラットに比べて体温の上昇が小さいことが確認された。

LPS投与後のラット体温の変化。シスチン・テアニンを摂取していない(コントロール)ラットと比較して、シスチン・テアニン摂取ラットでは、LPSによる体温上昇が有意に抑制された(*p<0.05)

生体内の主な抗酸化反応を担い、3個のアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)で構成される「グルタチオン」の合成は、酸化ストレスやサイトカインの発現が抑制されることが知られており、今回の成果は、シスチンとテアニンがグルタチオンの合成を増強する効果を持つことから、グルタチオンの合成を介して、細菌感染時の過剰な炎症反応を抑制し、高熱の発生を抑え、身体の回復を早める可能性があることが示されたという。

また、単一アミノ酸シスチンを経口摂取したマウスにLPSを投与し、炎症反応を引き起こす炎症性サイトカインIL-6の血中レベルを測定したところ、シスチンを摂取したマウスでは、摂取していないマウスに比べて、LPS投与によって産生されるIL-6が少ないことも判明したという。

LPS投与後のマウス血中IL-6濃度の変化。シスチンを摂取していない(コントロール)マウスと比較して、シスチン摂取マウスでは、LPSによるIL-6産生が有意に抑制された(*P<0.05)

さらに、LPSを添加した免疫担当細胞の1つである単球細胞THP-1に対して、マウスと同様にLPSによって産生されるIL-6量を調べたところ、シスチンを添加した単球細胞では、添加していない単球細胞と比べてIL-6産生を抑制することも判明したほか、シスチンを添加した単球細胞THP-1の炎症反応を抑える抗炎症サイトカインIL-10産生量を調べたところ、シスチンは単球細胞からのIL-10産生を増強することも判明したという。

単球細胞におけるLPS処理24時間後のIL-6産生量。シスチンの添加により、LPS処理後の単球細胞からの炎症性サイトカインIL-6産生が有意に抑制された(*P<0.05)

単球細胞におけるLPS処理12時間後のIL-10産生量。シスチンの添加により、LPS処理後の単球細胞からの抗炎症性サイトカインIL-10産生が有意に増強された(*P<0.05)

このほか、シスチンによる単球細胞からのIL-10産生増強をなくした場合、シスチンによるIL-6産生を抑制する効果が消失することも認められたとのことで、これらの結果から、シスチンが単球細胞からの抗炎症性サイトカインIL-10の産生量を増加させることで、炎症を引き起こすIL-6の産生を抑え、過剰な炎症反応、さらには高熱の発生を抑制している可能性が示されたと研究グループは説明する。

なお、この成果により、将来的に、シスチンとテアニンが外科手術後の早期回復のみならず、長期療養型の病院や介護施設でのインフルエンザ・風邪予防を目的として、広く活用されることが期待されるようになると同社では説明しており、今後も医療現場における課題解決にさらに貢献できる研究を継続して行っていく予定としている。