国立天文台は、東京大学、東京工業大学、総合研究大学院大学、京都大学、広島大学との共同研究により、国立天文台・岡山天体物理観測所の2台の望遠鏡を使用して、かに座にある「GJ3470b」と呼ばれる地球質量の14倍の「スーパーアース(巨大地球型太陽系外惑星)」の大気を観測することに成功し、この惑星には厚い雲がなく、晴れている可能性が高いことを明らかにしたと発表した。

成果は、国立天文台の福井暁彦研究員、同・成田憲保特任助教、東大・大学院生の黒崎健二氏らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」6月20日号に掲載される予定だ。

今回観測されたGJ3470b(画像1)を含むサイズの太陽系外惑星(系外惑星)の分類であるスーパーアースの定義はまだ明確に定められていないが、およそ地球と海王星(約17倍地球質量)との中間の質量を持つ地球型(岩石/固体型)の太陽系外惑星を指す。GJ3470bは主星に近い軌道を公転する天王星質量(約14倍地球質量)の惑星であることから、ホット・ウラヌス(灼熱天王星)とも呼ばれている。

またGJ3470bの特徴としては主星からの距離が0.036天文単位しかなく、地球~太陽間と比較したら約28分の1、太陽系でいえば水星の平均軌道ですら0.387天文単位あるので、どれだけ近い距離を公転しているかがわかるだろう(主星からの熱エネルギーも相当なものと思われる)。それだけ近距離のため、1公転周期(GJ3470bの1年)は3.3日ほどだという。

そして、大気の詳細観測が可能なスーパーアースは、GJ3470bを含めてまだ2個しか知られていない。もう1つは「GJ1214b」という惑星で、地球の約6.6倍の質量を持っている。つまり、GJ3470bは大気が調査された系外惑星としては2番目に軽い惑星というわけだ。

画像1はGJ3470bのイメージイラストだが、このイラストに関して捕捉すると、まずそのサイズだが、GJ3470b(手前)と主星(背後)の比率は実際と等しく描かれている。またGJ3470bの輪郭が赤く描かれているのは、惑星が晴れた大気を持っていることから主星の光の一部がGJ3470bの大気を透過し、夕焼けと同じ「レイリー散乱」が起きているためだ。

画像1。GJ3470bの想像図。(c)国立天文台

ちなみに系外惑星は質量がわかっていることが多いが、半径まで判明しているものは少ない。それは、いうまでもなく半径の測定が難しいためだ(質量がわかっても構成している物質によってサイズはいくらでも変化する)。ただし、たまたまその系外惑星が、地球から見て主星(親星)の手前を通過する「トランジット現象」を起こすような特別な軌道を持っていると、惑星の半径を見積もることができる。惑星がトランジットをする時、惑星の大きさに応じて主星がわずかに減光することから、その減光率を高精度に測定することで惑星の半径を測ることができるのだ。

研究チームも今回の観測ではその手法を採用し、岡山天体物理観測所の188cm反射望遠鏡に搭載された近赤外撮像・分光装置「ISLE(アイル)」と、50cm望遠鏡「MITSuME(3つ目)」に搭載された3台の可視光観測カメラを同時に使用して、GJ3470bのトランジットを高精度な観測を実施したのである。

そして画像2が、岡山天体物理観測所の2台の望遠鏡で得られた、GJ3470bのトランジットの観測データだ。横軸は時刻、縦軸は主星の明るさを表している。一番上のプロット(赤)は188cm望遠鏡で得られた近赤外線のデータ、下の3つのプロット(橙、黄、緑)は50cm MITSuME望遠鏡で得られた可視光のデータだ。グラフが3~5hの2時間にわたって凹んでいるのは、惑星がトランジット中に主星からの光を一部さえぎるため、その明るさが約0.6%暗くなっているためである。

画像2。岡山天体物理観測所の望遠鏡で得られた、GJ3470bのトランジットの観測データ。(c)国立天文台

それらのデータを基に、可視光から近赤外線にかけて4つの色(波長帯)で主星の減光率が測定され、惑星の半径が色ごとに見積もられた。その結果、近赤外線(波長1.3ミクロン)で測定した惑星の半径が、可視光(橙、黄、緑)で測定した半径に比べて約6%小さいことが発見されたというわけだ。

画像3が、測定されたGJ3470bの色(観測波長)ごとの半径である(主星とGJ3470bの半径比として表示)。丸のデータは今回の観測で測定されたもので、丸の色は画像2に対応。三角のデータは海外の研究チームがスピッツァー宇宙望遠鏡を使って観測した赤外線のデータだ。青い点線は雲がない大気を持つ場合の理論線を表し、黒の破線(水平線)は厚い雲に覆われていた場合の理論線を表している。

画像3。測定されたGJ3470bの観測波長ごとの半径。(c)国立天文台

この色によるGJ3470bの半径の違いは、GJ3470bが持つ大気の特徴が反映されているからだという。惑星が晴れた大気を持っていると、主星の光が惑星の大気を透過する際、特定の波長の光は大気分子に吸収されたり散乱されたりするため、観測波長によって主星の減光率、つまり惑星の見かけの半径に違いが生じる。

しかし、もし仮に惑星の大気が厚い雲で覆われているとすると、どの波長の光も同程度に散乱されるため、色による半径の違いは見られない。そのため、GJ3470bは少なくとも厚い雲には覆われていないということがいえるというわけだ。

その説明をまとめた、トランジット惑星の大気を観測する原理の模式図が画像4である。惑星がトランジットをする際、主星からの光の一部は惑星にさえぎられて観測者へ届かないが、その内の一部は惑星の大気を透過して観測者へと届く。この時、大気の透過率は観測波長によって異なるため、見かけ上の惑星の大きさが観測波長によって異なるのである。

画像4。トランジット惑星の大気を観測する原理の模式図。(c)国立天文台

通常、スーパーアースのトランジットによる主星の減光率は小さいため、スーパーアースの大気を観測することは困難だ。しかし、GJ3470bの場合は主星のサイズが小さいという特徴があり、主星に対する惑星のサイズが相対的に大きくなる。そのおかげで、大気の観測が可能になる程度に大きな主星の減光が見られるのだ。

さらに、この主星は可視光ではやや暗いのだが、近赤外線で明るいという性質を持っている。そのため、高性能の近赤外線観測カメラ・ISLEを用いることで、近赤外線において高い精度でスーパーアースの半径を測定することができ、今回の成果に繋がったというわけだ。

研究チームは、今後、すばる望遠鏡などの大型望遠鏡で、GJ3470bをより詳細に観測したいと考えているという。国立天文台の福井研究員は、「GJ3470bは主星からわずか0.036天文単位の距離を、約3.3日の短い周期で公転しています。そのような惑星がどのように形成されたのかは未だによくわかっていません。GJ3470bは厚い雲に覆われていない可能性が高いので、惑星の雲に邪魔されずに大気中の成分を検出できるはずです。もし大気中に水蒸気などの低温度で氷になる物質が検出できれば、この惑星はもともと、氷が存在できるぐらい主星から遠く離れた軌道(数天文単位)で形成され、その後、軌道が主星の近くへ移動したと考えられます。一方、もしそのような物質が大気中に見つからない場合は、この惑星は主星の近くで形成された可能性が高いと考えられます。GJ3470bの大気成分の調査によって、スーパーアースがどのように形成されたかを解明するための重要なヒントが得られると期待しています」と語っている。