東京大学生産技術研究所(AORI)は6月10日、震災前である2010年9月と、震災後で大津波が来襲した後の2011年9月、そして2012年9月に岩手県の大槌湾と船越湾でそれぞれ5地点ずつ、計10地点で潜水調査を行い、大津波が海底環境とその場の底生生物にどのような影響を及ぼしたかの調査を実施し、海底の生態系が2012年には回復が始まっていることを確認したと発表した。

調査を実施したのは、AORI海洋生態系動態部門 底生生物分野の清家弘治助教、同・附属国際沿岸海洋研究センター 沿岸生態分野の白井厚太朗助教、同・博士課程大学院生の小暮ゆきひさ氏らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間6月7日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

2011年3月の東北地方太平洋沖地震による大津波が海底生態系に及ぼした影響を知るためには、津波発生の前後の調査を比較する必要がある。しかし、大津波の発生を予測することは事実上不可能であることはいうまでもなく、また「潮下帯」(干潮時の水面よりも低い部分で、つねに海中となる部分)の海底の調査は頻繁には行われていない。そのため、潮下帯の砂泥底の生態系について、津波の直近の前後で比較が行われることは稀である。

しかし、研究チームは大津波の発生6カ月前に岩手県大槌湾および船越湾の砂泥底において潜水調査を偶然にも実施していた。そこで研究チームは、大津波発生から6カ月後と18カ月後にも同じ地点にて同様の調査を実施し、大津波が海底生態系にどのような影響を与えたかを調べることにしたのである(画像1)。なお、1970年代以降この海域で蓄積されてきた海底地形、堆積物、底生生物についての研究情報を合わせてまとめ、津波後に見られた海底環境や底生生物の分布の変化が、津波によるものかの検討も行われた。

画像1。岩手県の大槌湾(O-1~O-5)と船越湾(F-1~F-5)が調査実施個所。なお、斜線部は津波が浸水した範囲を示す

調査の結果、大津波によって海底環境(水深や堆積物組成)が大きく変化していることが確認された。画像2は、その一例で、大槌湾の観察結果だ。観察地点O-3では、津波前の2010年9月は水深10mで泥底であった。津波半年後の2011年9月には水深が約8mと浅くなり、また海底は砂利で覆われていた。つまり、津波により厚さ2mの砂利が海底に堆積したことを示している。その後、2012年9月の調査では、観察地点O-3の水深は再び10m程度になり、海底は泥で覆われていた。つまり、津波によって突発的に形成された海底環境(地形や堆積物)は長くは維持されず、津波前の状況にほぼ戻ったことが確認された。

画像2。観察地点O-3における海底環境の変化。写真中のパイプの直径は2cm。中央の写真のスケールはcm

底生生物の分布に関しても、津波の前後で大きな変化が確認された形だ。なお、底生生物の種類によって大津波から受けた影響の度合いは違っていることも判明。大槌湾におけるフリソデガイ、キサゴ、船越湾におけるハスノハカシパンなどは津波後に姿を消したが、その一方で大槌湾におけるコタマガイは大津波前後で生息状況がまったく変化しなかった。

画像3が大槌湾の観察地点F-4の海底における変化を撮影したものだ。津波前にはウニの仲間のハスノハカシパン(黒い円盤状のもの)が海底にたくさん生息していたが、津波後にはそれらがこの調査地点では一切見られなくなった。ハスノハカシパンの大きさは直径約5cm。中央と右の写真のリップル(海底面の波模様)の間隔は5~10cm。

また、津波によって一度はいなくなった底生生物が2012年9月には再び生息していることも確認されている。画像4は、船越湾におけるオカメブンブク(ウニの仲間)の分布の変化を表したものだ。大きな黒い丸は本種の生息が確認できた地点を、小さな白い丸は本種の生息を確認できなかった地点を表す。津波の6カ月前には調査地点F-1およびF-2に本種は生息していたが、津波6カ月後にはこの湾の調査地点から姿を消した。その後、津波から18カ月後には再び同じ地点に生息していることが確認された。このオカメブンブクの個体群が再び姿を現したことから、大津波のインパクトからの回復を2012年にはすでに開始していることを意味しているというわけだ。

画像3。観察地点F-4の海底における変化

画像4。船越湾におけるオカメブンブク(ウニの仲間)の分布の変化を表したもの

なお、同じ種であっても大槌湾と船越湾では異なる傾向を示すものも存在した。その一例として、船越湾のオカメブンブクは、生息(2010年)→非生息(2011年)→生息(2012年)という変化を示したことは前述したが、一方で大槌湾では非生息(2010年)→非生息(2011年)→生息(2012年)と異なる傾向を示している。このような差異が見られた理由としては、(1)2つの湾における元々の環境条件が異なること、(2)津波によるインパクトが2つの湾の間で異なっていたこと、などが考えられるとしている。