大阪大学(阪大)は6月1日、藤田保健衛生大学(FHU)との共同研究により、統合失調症患者の認知機能障害に関する遺伝子解析研究で、複合脂質の代謝酵素である「DEGS2(delta(4)-desaturase, sphingolipid2)遺伝子」の多型(SNP)が、同疾患の認知機能の低下に関連することが見出されたと発表した。

成果は、阪大 大学院 連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、FHUの岩田仲生教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間6月1日付けで米精神医学雑誌「American Journal of Psychiatry」電子版に掲載された。

統合失調症は約100人に1人が発症する精神障害であり、思春期青年期の発症が多く、幻覚・妄想などの陽性症状、意欲低下・感情鈍麻などの陰性症状、認知機能障害などが認められ、多くは慢性・再発性の経過をたどる。社会的機能の低下を生じ、働くことが困難で自宅で闘病する患者も多く、日本の長期入院患者の約70%が統合失調症だ。中でも社会機能と相関する認知機能障害が注目されている。

しかし、陽性症状を中心とする精神症状に効果のある薬剤はあるものの、統合失調症の認知機能障害を改善する薬剤は未だなく、現在、新たな薬剤の開発が期待されている状況だ。統合失調症の認知機能障害のメカニズムは解明されておらず、関連する遺伝子も見出されていないため、創薬ターゲットとなる遺伝子の発見が待ち望まれていた。

橋本准教授は、大阪大学医学部附属病院神経科・精神科において、統合失調症専門外来を行い、受診する統合失調症患者に認知機能検査、脳神経画像検査、神経生理学的検査など詳細な評価を行ってその診断と治療に従事してきた。その一方、「精神病性障害の遺伝子解析研究」として、これらの検査データである「中間表現型」(認知機能、脳神経画像、神経生理機能などの精神疾患に特徴的な神経生物学的表現型)と遺伝子の関連を検討している。

そこで統合失調症の認知機能障害を定量する方法として、現在の知能から病前の推定知能を差し引くことを提唱してきた(画像1:平均を100として約16の低下)。その「全ゲノム関連解析(Genome Wide Association Study:GWAS)」を行うことによって、認知機能障害の程度に関連する遺伝子としてDEGS2遺伝子が発見された(画像2)。DEGS2遺伝子は、ジヒドロセラミドなどを不飽和化して、分子中にリン酸や糖などを含む脂質である複合脂質の1種であるセラミドなどに転換する酵素をコードする。

画像1。統合失調症の認知機能障害により、知能指数が病前より下がる

画像2。認知機能障害の程度に関連する遺伝子が発見された

今回の研究成果により、統合失調症の認知機能障害に関与する遺伝子が同定されたことから、認知機能障害改善薬を開発するための基盤となる創薬ターゲットが発見されたといえる。将来的に統合失調症の認知機能障害改善薬が開発されれば、統合失調症患者の社会機能が改善し、多数の入院患者が退院し、家庭での役割を果たすことができるようになったり、労働に従事することができるようになったりすることが期待されるという。

また、GWASという手法にて統合失調症や双極性障害の遺伝子が見つかってきているが、統合失調症の認知機能障害という神経生物学的な側面(中間表現型)に着目したGWASはなされていなかった。今後、統合失調症だけでなくさまざまな精神障害において、中間表現型を用いた研究手法が発展することが予想されるとしている。