大阪市立大学(大阪市大)は5月29日、解熱や痛み止めなどに広く使われている「非ステロイド性抗炎症(NSAID:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug)」による小腸傷害が炎症性サイトカインの1つである「TNF-α」により引き起こされることを、NSAIDを長期服用中の関節リウマチ患者を対象としたカプセル内視鏡による研究で明らかにしたと発表した。

同成果は同大大学院医学研究科 消化器内科学の渡邉俊雄 准教授らによるもの。詳細は英国の消化器専門誌「Gut」オンライン版に掲載された。

NSAIDは、感冒患者の解熱から変形性関節症や関節リウマチなどの骨関節疾患患者の鎮痛まで広く使用されている薬剤で、例えばNSAIDの1つである低用量アスピリンは心筋梗塞や脳梗塞の予防に用いられている。しかし、NSAIDの長期服用はさまざまな副作用を引き起こすことが知られており、中でも深刻なのが潰瘍やビランなどの胃腸傷害で、重症例では出血や穿孔を来たし死に至ることもある。

NSAIDに起因する性消化管傷害は薬剤性消化管傷害の代表であり、従来はその大半は胃や十二指腸などの上部消化管に発症すると考えられていたが、21世紀に入りカプセル内視鏡が開発されて以降、精密検査が困難であった小腸の観察が可能になった結果、小腸にも高頻度にNSAIDによる傷害が発症していることが分かってきた。

しかし、現在、NSAID起因性小腸傷害に対する保険適用薬はなく、NSAIDの中断を余儀なくされる場合が増えてきている。また、中断によって疼痛の増強や低用量アスピリン内服者では血栓症の誘発など、多くの深刻な問題が引き起こされるため、有効な予防・治療薬の早急な開発が望まれるようになっていた。

関節リウマチは全身の関節に炎症が起こり腫れや痛みが生じる病気であるために、症状を抑えるために長期間NSAIDを服用する必要がある。近年の研究から、その発症や進行に炎症性サイトカインの1つである腫瘍壊死因子(TNF-α:Tumor Necrosis Factor-α)が関与していることが判明し、TNF-αと特異的に結合してその働きを抑える薬剤であるTNF阻害薬の投与により関節炎を寛解させることが可能になったが、研究グループがマウスなどを用いた基礎研究を行ったところ、TNF-αがNSAID起因性小腸傷害の発症にも関与している可能性が示唆されたとするが、ヒトの小腸傷害の原因になっているか否かは証明されていなかったという。

そこで今回、NSAID起因性小腸傷害の発症にTNF-αが重要な役割を果たしているのであれば、NSAIDを服用中でもTNF阻害剤の投与を受けている関節リウマチ患者では、小腸傷害の程度が軽いのではないかと考え、NSAIDを長期間服用している関節リウマチ患者の協力を得て、カプセル内視鏡を施行して小腸の観察を行い、重症小腸傷害の発生頻度をTNF阻害薬の投与を受けている群(TNF療法施行群)と同薬の投与をうけていない群(TNF療法非施行群)とで比較を行った。

この結果、TNF療法施行群ではTNF療法非施行群に比較して重症小腸傷害の発症のリスクが約1/4に低下していることが確認されたという(オッズ比:0.23)。

今回の結果は、NSAIDによる小腸傷害が炎症性サイトカインであるTNF-αにより引き起こされていることを示すもので、こうした低用量アスピリンに起因する小腸傷害は大量出血などの重症例が多く、より早急な治療法の確立が望まれていることから、研究グループでは、そうした既存のTNF阻害薬の有効性を検証する臨床試験の準備を現在進めているという。

ただし、TNF阻害薬は非常に高価な薬剤であることから、仮に有効性が確認されたとしてもすべてのNSAID内服者に使用することは医療経済的に好ましくないことから、将来的にはTNF-αを標的とした創薬を行い、より安価な薬剤による予防・治療法の確立を目指したいと考えているとコメントしている。

カプセル内視鏡で認められたNSAIDによる重症小腸傷害