名古屋大学(名大)は5月24日、「遺伝性色素異常症」の1つである「網状肢端色素沈着症(reticulate acropigmentation of Kitamura:RAK)」の原因遺伝子が「ADAM10」であることを究明したと発表した。

成果は、名大大学院 医学系研究科 皮膚病態学の秋山真志 教授、同・河野通浩 講師らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月10日付けで英国科学雑誌「Human Molecular Genetics」オンライン版に掲載された。

RAKは、幼少時から手足、腕、大腿部、首にかけて陥凹した色素班が網目状に(網目状の皮膚のシミ)広がる、常染色体優性遺伝形式の遺伝性色素異常症だ(画像1)。多くが思春期までに発症し(7割が20歳までに発症)、中年になるまでゆっくりと四肢体幹に広がっていき、その後にようやく拡大が止まる。病理組織学的には、色素斑部は表皮突起が延長して、その先端に色素沈着が認められ、炎症細胞浸潤はわずかである。70年前に日本人皮膚科医の北村包彦博士らによって報告されたが、今もってこの病気の原因がまったくわかっていなかった。

画像1。RAK。手背、足背を中心にわずかに陥凹した色素斑が網目状に広がる皮膚症状が特徴

原因遺伝子の同定のため、はじめにRAKの日本人1家系で次世代シークエンサーによる「エクソーム解析」が実施された(画像2)。ヒトのゲノムDNAには約2万遺伝子があり、中でも実際にヒトの体を構成するタンパク質の設計図は、遺伝子中の「エクソン」領域にある。同領域は約18万あり、全エクソンの塩基配列を解析装置の次世代シークエンサー解読し、その中から異常(変異)を見つけ出す手法をエクソーム解析という。

今回の解析の結果では53の候補変異が見つかり、同じ家系に属する別の4人における変異の有無と病気の有無を比較することにより、ADAM10が原因遺伝子であると特定。さらに別家系の4患者のADAM10遺伝子を調べたところ、それぞれ別々の変異が認められた形だ(画像3)。

なお、これまで同じ病気かどうかが問題となっていた、「Dowling-Degos disease(DDD)」の原因遺伝子である「KRT5」には変異は認められなかった。つまり、DDDとは独立の疾患であることも今回の研究で明らかになったのである。

画像2。網状肢端色素沈着症の大家系。四角は男性、丸は女性、黒は病気あり、白は病気なしを表す。今回の研究では*がついている4名が調査された

画像3。新しい遺伝病の原因遺伝子の解明方法。従来の「サンガーシークエンス」では費用も時間も膨大で、実質的に不可能だが、次世代シークエンスによって実現した

RAKは病因がこれまではまったく不明で治療法もなかったが、今回原因遺伝子が明らかになったことで、病態の解明と治療法の開発について前進したといえる。また、ADAM10は皮膚でさまざまな気質のタンパク質の一部を切断することが判明しているが、RAKを発症するための基質タンパク質は明らかとなっていない。そこで研究チームは、その基質タンパク質を同定することを今後の目標の1つとして病態の詳細な解明を行い、その結果により効果的な治療法の開発を行っていくとしており、名大医学部附属病院皮膚科として、網状肢端色素沈着症の遺伝子診断を行うので同疾患が疑われる患者の紹介を全国の医療関係者に対して呼びかけたいとのことで、心当たりのある医療関係者の方は、連絡をしてもらいたいとコメントしている。