すっぱり遊びをやめ、4歳年下の妻を心の底から愛している34歳のK

34歳のKは都内の小さな会社に勤める既婚男性だ。結婚して2年になる4歳年下の妻のことを心の底から愛しており、休日にはいつも二人でデートに出かけている。Kと妻の間にはまだ子供がいないため、今も恋人気分を楽しんでいるのだ。

独身時代のKはどちらかというと遊び人タイプで、数多くの女性と付き合ってきた恋多き男性だった。したがって、今もKには多くの女友達がおり、飲み会などに誘ってくる男友達も後を絶たない。妻にしてみれば、そんなKのことが心配でならないだろう。Kの過去や置かれている環境を考えると、いつでも浮気できそうに見えるはずだ。

しかし、結婚後のKは本当にすっぱり遊びをやめたのである。現在もつながっている女友達についても、みんなただの友達ばかりで下心はまったくなく、そもそも二人きりで会うようなことはなくなった。独身時代はそれなりに盛んだったキャバクラ遊びも完全に卒業し、男友達からの飲み会の誘いがあっても、たまに付き合いで参加する程度。しかも深酒になることはほとんどなく、終電が近づくと、さっさと家に帰るという。

その理由を訊ねると、Kは「妻といるほうが楽しいからですよ」と即答した。別に結婚したから真面目になろうと意識したわけではなく、単純に妻のことが好きで、妻と二人でいたほうが楽しいから、なるべく妻との時間を増やしているだけだとか。

「今まで、男女問わずいろんな人と遊んできましたけど、会話するのも食事するのも酒を飲むのも、妻と一緒が一番楽しいんですよ。休日に出かけるのだってそうです。買い物をするにしても、映画を観るにしても、ドライブするにしても、妻が一番飽きないし、価値観も合うし、笑いのツボも一緒だし、刺激もある。だから、他の女の子と遊びたいってまったく思わないんですよ。キャバクラとかで他の女の子とつまらない話をするくらいだったら、家で酒を飲みながら妻と話しているほうがいい。金の無駄ですしね」

Kはそう言って、さわやかに笑った。その表情からは無理をしているような様子はまったく感じられないため、おそらく本音なのだろう。

妻にしてみたら、Kは最高の夫なのではないか。独身時代、さんざん遊んできた男がここまで自分を愛してくれているのだ。数多くの女性の中から、妻こそが一番の女性だと自信満々に断言してくれているのだ。しかも、Kが高く評価しているのは妻の価値観であったり、笑いのツボであったり、会話の刺激であったり、すなわち彼女の内面である。この内面が高ポイントであるなら、いくら年を重ねても夫婦仲は安泰だろう。

夫婦の唯一の問題が、3年以上も続いている「セックスレス」

ところが、神様とは悪戯なもので、この夫婦にもひとつだけ問題があった。

それは夫婦の営みがないということ。つまり、二人はセックスレスなのだ。

しかも、これだけ妻のことを愛しているKのほうが、妻との営みに対して拒否反応を示しているというから驚きである。K曰く、セックスレスは結婚前から始まっており、かれこれ3年以上も続いているとか。Kは人間としての妻のことは高く評価し、一生を共にしたいと心の底から思っているのだが、それでも妻に対して性的な欲情を感じることはまったくないという。それとこれとは別物ということである。

Kはまだ34歳、妻は30歳、さらに子供がいないことも考えると、まだまだセックスレスになるには早すぎる。当然、妻はそれをよくわかっているため、夫に対して不満がないわけではない。妻は夫と違って、夫婦の営みに対して積極的なのだ。

とはいえ、Kにその気がないのだから、妻としてもつらいところだ。他の部分ではなんの不満もなく、むしろ最高の夫だと思っているだけに、その唯一にして大きな問題点が余計に心に重くのしかかる。セックスレスが原因で夫婦仲が悪くなっては、せっかくの他の幸せな要素にも影を落としかねないため、あまり激しく抗議するのも気が引ける。

浮気願望は全くなし、処理はするが妻への想いは本物

一方のKは、妻に対して欲情しないからといって、他の女性と浮気願望があるわけでもないため、そこに関しては大きな問題ではない。ただし、Kも普通の34歳の男性であるからして、いわゆる男性としての本能的な衝動は少なからずあり、それを処理することについては頭が痛いという。妻以外の女性と仲良くなりたいとか、デートしたいとか、そういった気持ちは一切ないものの、他の女性への男性的な興味は一向に尽きないのだ。

かくして、現在のKは月に一度か二度のペースで"そういうお店"に行き、後腐れのない女遊びをすることで、諸々の処理をしているという。もちろん、このことは妻に完全に内緒であり、今のところばれている気配もないという。夫婦関係は極めて円満だ。

果たして、世の女性たちはこれをどう考えるのか。この場合、Kは浮気をしていることになるのか、ならないのか。はたまた、妻にしてみればKは最高の夫なのか、そうでないのか。繰り返すが、Kは他の要素に関しては妻を心の底から愛しているのだ。

また、世の女性たちはどちらの関係のほうがマシだと考えるのだろう。普段の夫婦仲には多少の問題があっても、夜の営みに関しては順調な関係と、このK夫婦のような愛はあれども営みはない関係。究極の選択かもしれないが、気になるところである。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。1976年大阪府出身。早稲田大学卒業。『神童チェリー』『雑草女に敵なし!』『SimpleHeart』『芸能人に学ぶビジネス力』など著書多数。中でも『雑草女に敵なし!』はコミカライズもされた。また、最新刊の長編小説『虎がにじんだ夕暮れ』(PHP研究所)が、2012年10月25日に発売された。各種番組などのコメンテーター・MCとしても活動しており、私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。

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