科学技術振興機構(JST)は5月7日、熱電変換素子と燃料電池を組み合わせた熱電シナジー排ガス発電システムの開発に成功したと発表した。

地球規模の気候変動や化石燃料の枯渇、燃料費の高騰などの問題から、燃料消費の改善に向けた研究が世界各所で進められている。従来の自動車やオートバイなどは、エンジンの動力を利用した機械式発電機によって発電し、ライトなどの電気系統に電力を供給しているが、その電力をエンジン以外から供給できれば、環境負荷軽減につながることが期待されることから、今回、研究チームでは、従来は排出されてしまう熱と未利用の燃料を電気エネルギーとして回収す発電装置として、燃料電池と熱電変換材料を組み合わせた「熱電シナジー排ガス発電システム」を開発したという。

同発電システムでは、排ガス中のガソリンなどの未利用燃料を利用して燃料電池の発電を行うとともに、排熱エネルギーから熱電変換素子による発電を行い、発電量を向上させる。具体的には、燃料電池にも熱電素子にも使える混合伝導体を用いて固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電極と熱電変換素子を一体化し、SOFCと熱電変換素子の複合体(シナジーセル)を試作。シナジーセルは円筒型の構造とし、焼成条件や接合方法の検討を行い、量産化に向けた製造方法も確立したという。また、円筒型SOFCの電極(空気極)には混合伝導体である、バリウム・ストロンチウム・コバルト・鉄からなる酸化物(BSCF)を採用したほか、熱電変換素子には、p型素子にBSCFを、n型素子にイットリウム・カルシウム・マンガンからなる酸化物で構成し、電極材料および熱電変換素子の組成の最適化や固溶元素配合、電解質の薄膜化、熱電変換素子の形状なども検討し、発電性能の向上を図ったという。

図1 熱電シナジー発電システムの概念。熱電変換素子を円筒型SOFC上に配置。円筒型SOFCは、内部から燃料極、固体電解質、空気極の構成とし、内部には内燃機関からの排ガスを供給する。熱電変換素子はSOFCの外表面に形成し、そのp型素子はSOFCの空気極を兼ねる

図2 SOFCと熱電変換素子の複合体(シナジーセル)と熱電シナジー排ガス発電システムの構造。シナジーセル320本を直列、並列に接続して熱電シナジー排ガス発電システムを形成

さらに、複数のシナジーセルを用いて、排ガス発電システムを試作しオートバイに搭載し、実際の排ガスで発電性能を測定した結果、排ガス温度500~600℃において、システムの出力密度は1W/cm3以上を達成できることを確認。これは、400ccのエンジンが出す排ガスエネルギーの2.5%を回収できたことを意味し、ライトなどの電気をまかなっている400W級の発電ユニットの性能に相当するという。

今回開発された発電システムは、熱と希薄な未利用燃料が存在すれば発電が可能となるため、排ガスが供給されず、SOFCの出力が低下するエンジンの燃費向上機能(アイドルストップ、フューエルカットなど)の作動中であっても、残存する排熱を利用して熱電変換素子が発電を続けるため、連続的な電力供給が可能であり、研究グループでは今後、発電効率などの向上により、自動車やオートバイなどの移動体ばかりでなく、ポータルブル発電機や工場の排ガスを利用した発電装置など広範囲に応用できる可能性があるとしている。

図3 オートバイに搭載した熱電シナジー排ガス発電システム

図4 左図はSOFCの電流―電圧特性(1シナジーセル)、右図は熱電変換素子の特性。左図よりSOFCの発電出力は0.431W、右図より熱電変換素子の発電出力は0.0003Wが得られた。出力密度(システムの1W/cm3)=発電出力(W)÷シナジーセル(SOFC+熱電変換素子)の体積(1cm3)=(0.431W+0.0003W)/0.316cm3=1.364W/cm3。出力密度算出についてはSOFC、熱電変換素子を個別に計測し、出力を合算させシナジーセルとしての体積当たりの出力密度としている。今回の検証においては単位体積当たりの出力を目標としたため、SOFCに対し熱電変換素子での発電出力の比率が小さい結果となった