東北大学は4月15日、岩手大学、旭電機(現・古河電工パワーシステムズ)との共同研究により、経年劣化した送電線部品に「摩擦攪拌点接合」を適用して安定した導通点を確保する新技術の開発に成功したと発表した。

成果は、東北大大学院 工学研究科 材料システム工学専攻の佐藤裕准教授、同・粉川博之教授らの研究チームによるもの。内容に関しては、4月18日に東京で開催される溶接学会春季全国大会で発表される予定だ。

送電線と送電線鉄塔はいうまでもないが電気的な隔離が必要なため、両者は絶縁体のセラミックス部品を介してボルトで固定されている。送電線同士の電気的導通はジャンパ線によって確保されており(画像1)、アルミニウム部材である送電線とジャンパ線はそれぞれ引き留める金具を介してボルト締めされている仕組みだ(画像2)。ただし、ボルト締めで得られた電気的接点には、経年使用に伴い雨水などが浸透するため、接点部で酸化皮膜が成長して電気抵抗が増加し、接点部が発熱・溶損に至る場合がある。

画像1。送電線と鉄塔の構造

画像2。送電線とジャンパ線の固定方法

この問題を回避するため、引き留め金具部を回避するためのバイパス線の設置などの対策が採られているが、結局のところはさらなる経年使用に伴って同様の問題が生じてしまう可能性があるため、安定した送電レベルを維持するには定期的な保守点検を欠かさず行うという方法しかない。

しかし、保守点検をコストもかかれば労力もかかるし、作業者の危険性もあるので、可能ならば酸化皮膜の成長に伴う経年劣化を半永久的に防げたり、さらには経年劣化した接点部を効果的に補修できたりする技術が存在していることが望ましい。実はそうした技術は存在しており、電気的な接点近傍を金属的に溶接・接合することでそれが可能となるのだが、問題があった。既存の溶接・接合法では設備の電源・重量などの問題から鉄塔上での施工に課題が残されていたのである。

こうした背景があることから、東北大は岩手大学、旭電機と共同研究を行い、摩擦攪拌点接合を用いた金属接合を適用して、送電線部品の安定した導通を半永久的に確保する新しい手法を開発した次第だ。摩擦攪拌点接合はアルミニウム合金製自動車ボディの製造に利用されている技術で、非消耗回転ツールを部材中に圧入して接合界面を攪拌した後、ツールを引き抜くという単純なプロセスである。つまり、母材となる金属の表面に対し、先端に突起のある別の金属を力でもってねじ込み、摩擦熱でもって両金属を接合させるというものだ。また、この摩擦攪拌点接合は、大型電源・設備が不要であることも特徴の1つで、その点で鉄塔上での作業にも大きな可能性を秘めている。

画像3が実例で、経年劣化した引き留め金具部に工業用純アルミニウム板を配置して摩擦攪拌点接合したもの。接合時間3秒で良好な金属接合が達成された形だ。同時に純アルミニウム板を介した電気的導通が確保され、引き留め金具間の接触抵抗を1/4に減少させることに成功した。また、連続通電試験において抵抗値の急激な変化や不安定な変動もなく、良好な電気的導通が確認されている。

画像3。送電線部品への摩擦攪拌点接合(FSSW)の適用事例

なお研究チームは、この技術により、全世界に張り巡らされている送電線ネットワークの安定化、保守点検の軽減が期待されるとしている。