京都大学は4月10日、リチウムイオン電池に用いられる電極材料の相変化過渡状態を明らかにし、高速充放電可能な蓄電池材料のメカニズムを解明したと発表した。

成果は、同大 折笠有基助教、小山幸典特定准教授、福田勝利特定准教授、荒井創特定教授、内本喜晴教授らによるもの。詳細は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にJust Accepted Manuscriptとしてオンライン公開された。

リチウムイオン電池は、エネルギー密度やエネルギー変換効率の高さから、高性能蓄電池としてモバイル機器の電源などに広く用いられ、社会の発展に寄与してきた。近年では、環境・エネルギー問題の観点から、電気自動車用電源、電力貯蔵用蓄電池などへの適用が求められているが、さらなる性能向上が必須となっている。特に、自動車用電源としては高速充放電特性が重要であり、十分な加速性能や、ガソリン給油並みの短時間充電を実現するには特性の向上が必要となる。

リチウムイオン電池の正極材料であるLiFePO4は安価な鉄を原料としており、安定性も高く、すでに一部で実用化されている。中でも、充放電前後での物質の体積変化が大きく、反応進行中の歪みが大きいと想定されているにも関わらず、優れた高速充放電反応が可能な点は注目される事象であり、これまで種々の検討がなされてきたものの、高速反応を実現するメカニズムは不明のままであった。これはリチウムイオン電池中における電極材料の変化を充放電反応時にリアルタイムで観測することが難しかったことに起因する。

高速反応を実現するメカニズムを明らかにできれば、今後の電極材料開発が飛躍的に進展すると考えられることから、今回の研究では、電極材料の結晶構造・電子構造変化をリアルタイムで観測可能な、「時間分解X線回折法」、「時間分解X線吸収分光法」を、リチウムイオン電池動作環境で測定可能な実験系へ組み込み、高速充放電時における電極材料の相変化挙動の解明が試みられた。X線源には大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を用いることで、充放電反応中の構造情報を連続的に取得した。

図1 時間分解X線回折法によるリチウムイオン電池作動条件下での測定手法

高速充放電可能な正極材料であるLiFePO4は、充放電反応中には熱力学的に安定な2つの相の間で反応することが知られている。高速充放電中の結晶構造を時間分解X線回折測定により解析した結果、安定な二相に加え、中間の格子定数を有する固溶相LixFePO4相が生成していることを発見したという。

図2 LiFePO4の高速充放電反応中のX線回折パターン変化(四角で囲んだ回折は定常状態では観測されず、高速反応中にのみ観測される)

これにより、LixFePO4相の出現量は充放電速度が速いほど多く、定常状態では消滅することから、準安定な相であることがわかった。準安定なLixFePO4相は、高速反応時に生成し、二相の歪みを緩和することで、LiFePO4の高速充放電特性を発現していると考えられるという。

図3 高速反応可能な準安定相LixFePO4を経由した相変化メカニズム

リチウムイオン電池の作動条件下における動的挙動の解析は、これまで計算や定常状態の測定からの推測でしか議論されてこなかった非平衡状態での相転移現象解析を可能にすることから、研究グループでは、今回得られた高速反応を実現させるメカニズムを新規活物質の設計に反映させることで、さらなるリチウムイオン電池の高速反応化を目指すとしている。

なお今回開発された手法は2012年4月から運用を開始したSPring-8の「RISINGビームライン BL28XU」にて、実用電池材料に対して広く適用されており、研究グループでは、この知見を活かして、リチウムイオン電池に代わる高性能な革新型蓄電池の開発を進めて行く方針とコメントしている。