野菜たっぷりの「白身魚のグラタン」

「小中学生体力テスト全国1位」「中学校学力テスト全国1位」「幸福度ランキング全国1位」(※)、これらのすばらしいデータは全て福井県のもの。この豊かな県民性の秘密は「食」、特に「給食」にあるらしい。そんな福井県の給食に注目したレシピ本『福井県のおいしい給食レシピ』(辰巳出版)が、今注目を集めている。

豊かな自然と食文化が「給食」にも反映

福井県と言えば、「東尋坊(とうじんぼう)」「若狭湾」「越前ガニ」「羽二重餅(はぶたえもち/蒸した餅粉に砂糖、水あめを加えて練った和菓子)」「眼鏡産業」などで知られているが、決して目立つ県ではない。しかし、冒頭で紹介したように、体力、学力の高さ、生活の豊かさでは全国トップレベルの高さを誇っている。その理由を探っていくと、たどりつくのが「給食」だ。

豊かな自然に囲まれた福井県の家庭では、古くから地元の食材をふんだんに取り入れた身体にやさしい食事が作られてきた。また、寺院が多く、野菜や豆類を使った精進料理も根づいている。そんな食文化を反映し、また、県が食育に力を入れていることもあり、給食では子供たちの健康と成長を考えたメニューが提供されている。

グラタンに白身魚、牛乳に代わって豆乳を

『福井県のおいしい給食レシピ』には、独自の食育法を持つ県内2つの保育園の給食メニューをベースに、身近な食材で誰でも作りやすいようにアレンジされたレシピが満載。福井県の給食の特徴を「野菜が多く、乳製品、塩分、化学調味料の使用が少ないこと」とし、全部で62のメニューを紹介している。

気になるメニューを紹介していこう。まず、子供たちが大好きなグラタンは、お魚をメインに「白身魚のグラタン」としてアレンジ。ジャガイモ、タマネギ、ほうれん草など野菜たっぷり、牛乳とバターは控えめにして、具だくさんでヘルシーな一皿に仕上げる。

シチューにおいては、牛乳やコンソメの代わりに豆乳とだし汁を使用。保育園児の段階では、それほど多くの乳製品を必要としないため、このように豆乳やだし汁を使うなどして、良質な栄養分を効率的に摂(と)れるよう工夫されている。

「さわらのしそ香焼き」はごま油で香ばしく

味付けがほぼ決まっているような定番メニューに対して、新しい味つけや作り方を提案しているのも、このレシピ本のうれしいところ。例えば「さわらのしそ香焼き」は、しょう油と酒、ごま油で下味をつけて、大葉と白いりごまをちらした一品。いつもの焼き魚も調味料を少し変えるだけで、新しい味が楽しめる。

また、おなじみのハンバーグは、粗みじんのキャベツを加えた「キャベツ入りハンバーグ」としてアレンジ。調味料が控えめな分、シャキシャキのキャベツとあめ色に炒(いた)めたタマネギの甘みが際立つ。このように野菜を増やすと咀嚼(そしゃく)回数も増えるので、消化吸収やあごの発達など食育面でのメリットが大きいそうだ。

福井県の給食でよく使われる食材とは? 

『福井県のおいしい給食レシピ』を見ていくうちに、福井の給食で特徴的な食材が浮かび上がってきた。それは「厚揚げ」と「里いも」だ。

福井で油揚げと言えば「厚揚げ」を指す。福井の厚揚げは厚さ3~4センチあり、外はカリカリ、中はフワフワで食べごたえ満点。古くは精進料理の貴重なタンパク源、お正月や結婚式などのごちそうとして食べられていたが、今では一般家庭の食卓に登場する定番食材となっている。

レシピ本では「厚揚げのみそ炒め」「厚揚げの南蛮漬け」などが紹介されている。通常、肉や魚を使うところに、その代わりとして厚揚げを使うことで、よりヘルシーで栄養バランスの取れたメニューが楽しめる。

また、福井県は里いもの産地でもある。中でも、煮崩れせずモチモチした食感の大野市上庄(かみしょう)地区の里いもは、「上庄里芋」としてブランド化されている。レシピ本では、地元産のおいしい里いもを使った「里いもごはん」「里いものゆず風味ソテー」などが紹介されている。

カリッと揚がった「厚揚げ」は絶品

モチモチした「里いも」料理も定番

発行元の辰巳出版によると、メインターゲットは子育て中のママだが、ダイエット中の女性やシニア世代の購入者も多いそうだ。読者からは「身体に良さそうなので、是非作ってみたい」「ヘルシーだけどおいしそう」といった声が寄せられているほか、給食関係者などプロからは「給食作りの参考になる」と好評だという。

食材選びや味つけ、栄養バランスなどを考える上で参考になる点も多い。福井独特のレシピに興味を持った人は、こちらの本を参照して、身体が喜ぶ料理を作ってみてほしい。

カニや珍味も登場! 地産地消のユニーク給食

食育では「地産地消」も重要なキーワードになっていて、各地で地元の食材を取り入れた給食が出されている。福井県の給食では「厚揚げ」「里いも」以外にも、他の県ではまず見られない珍しい食材がお目見えすることがある。

福井では雄のズワイガニを「越前ガニ」、雌を「セイコガニ」と呼ぶ。冬場の給食にはなんと、「セイコガニ」が登場することがある。そのほとんどが福井の家庭で消費されるため、県外に出回ることはまずない、まさに地元の味。給食では1人1杯ずつ配られ、子供たちは食べ方の指導を受けながら、故郷の味覚を堪能するという。

「セイコガニ」の給食なんて贅沢~

大人の珍味「へしこ」が登場することも

また、福井県若狭地方の郷土料理である魚のぬか漬け「へしこ」が登場することも。日本酒にピッタリの大人の珍味だが、給食では「へしこごはん」「へしこグラタン」などにアレンジされる。このように地元の旬の味が登場するのも給食の楽しみ。食材豊富な福井の子供たちは、給食時間をさぞや満喫しているのだろうと思うと、うらやましい限りだ。

『福井県のおいしい給食レシピ』。毎日の料理のヒントがいっぱい

最近、定食スタイルで栄養バランスの取れた給食が見直されているという。中でも福井県の給食は、子供たちの心身の成長を考えた優秀レシピと言える。すばらしい県民力はすばらしい食にあり。福井県の豊かさの理由のひとつに「給食」があることは、間違いなさそうだ。

※小中学生体力テスト 男女とも全国1位(文部科学省「全国体力・運動能力、学習調査」/2010年)
※中学校学力テスト 全国1位(文部科学省/2012年)
※幸福度ランキング 全国1位(法政大学大学院「47都道府県の幸福度に関する研究結果」/2011年)