北海道大学(北大)は4月9日、レーザポインターのような光源で、タンパク質やDNA、合成高分子などの高分子を捕まえることができる光ピンセットを開発したと発表した。

成果は、同大 大学院理学研究院 坪井泰之氏らによるもの。詳細は「国際光工学会(The International Society for Optical Engineering:SPIE)」のWeb版ニュースリリースに掲載された。

赤血球やポリマービーズなどの微粒子を空間的に捕まえ、操ることができる技術の1つに光ピンセットというものがある。これは、明るいレーザビームをレンズで集光し、焦点で小さな微粒子を捕捉する技術である。ビームを操作すれば、捕まえた微粒子を操ることもできる(光マニピュレーション)。今までこの光ピンセットは、生物学の分野で大きな成果を上げてきた。細胞を引っ張ったり動かしたり、その様子を観察できるためという。

ところが、この光ピンセットで、細胞よりも小さいタンパク質やDNAといった高分子を捕まえ、操ることはできなかった。捕まえる物体の大きさが小さくなると、ピンセットの握力も弱くなってしまうためで、もし、細胞とタンパク質やDNAを別々に捕まえ、互いを自在に操り、細胞内にこれらの高分子を導入できれば、創薬やDNA発現の研究に大きなインパクトがあると考えられている。これを実現するためには、細胞よりもはるかに小さな、生体高分子を捕まえ、操ることができる新しいピンセットが必要になっていた。

研究グループでは、金の微粒子に、ある波長の光を当てると、プラズモン励起によって、電子がさざなみのように動き出し、光の力が1万倍以上に増幅されることに注目。この効果を光ピンセットに応用すると、光ピンセットの握力も1万倍強くなると考えられたことから、自己組織化的な手法を用いてガラス基板上に金ナノ粒子を配列させ、鎖状高分子やDNA、高分子ゲル微粒子などの分子系のナノ粒子(サイズ10~200nm)を含む水溶液に接触させ、プラズモンを励起する近赤外光を照射し、金ナノ粒子表面での分子捕捉を試みたという。

実際に開発したプラズモン光ピンセットで、タンパク質モデル化合物である高分子の光捕捉を試みたところ、蛍光スペクトル測定および顕微鏡観察により、金ナノピラミッドの近傍に、好きなタイミングで高分子を捕捉し、操ることに成功したという。また、同現象の理論解析も行い、この現象が典型的なプラズモン光ピンセットであることも確認したとしている。

金ナノピラミッドの近傍に、好きなタイミングで高分子を捕捉して操る図。理論解析も行い、この現象が典型的なプラズモン光ピンセットであることを確認した

さらに、捕捉対象の範囲を広げ、実験と議論を重ねたところ、ゲル微粒子やポリスチレン粒子、DNAなどの高分子系を、開発したプラズモン光ピンセットによって効率よく捕捉・操作することが可能であることを確認したとする。

今回の手法で高分子を捕まえ、操った実例の顕微鏡写真。(a) 直径500nmの高分子ナノ粒子を捕捉。微粒子を2次元的に六角形に整列させた。(b)タンパク質モデル高分子のゲルナノ粒子を捕捉。捕捉した微粒子を操り、このようなリングパターンを描くことに成功した

同手法を駆使すれば、ミクロな空間で分子系を自在に操り、異なる分子系同士を空間的に接触させ、配向や化学量論などを制御した高選択的な化学合成や、DNAハイブリダイゼーションが可能になるかもしれないと研究グループでは説明する。また、捕捉した分子系の高感度な光検出も期待できることから、今まで作成できなかったような、新しい診断ツールであるDNAチップやタンパク質チップを作ることも可能となり、在宅診断や各種臨床検査への応用展開なども期待できるとコメントしている。