北海道大学(北大)は4月1日、ヒトが持つ2本の性染色体(男性はXY、女性はXX)のうち、女性の持つ2本のうちの1本のX染色体が小さく折りたたまれて凝縮(ヘテロクマチン)し、遺伝情報を読み取ることができない状態(バー小体)への導くタンパク質を「HBiX1」であることを突き止め、さらにHBiX1あるいはもう1つのタンパク質「SMCHD1」の動きを阻止すると、バー小体がなくなることを発見したと発表した。

同成果は同大大学院先端生命科学研究院の野澤竜介氏、同 長尾恒治 講師、同 小布施力史 教授らによるもの。詳細は科学誌「Nature」の姉妹誌である「Nature Structural & Molecular Biology」に掲載された。

女性の性染色体XXのうち、1本が不活性化された状態であるバー小体は60年以上前から知られているが、これまで具体的な構造や詳細は不明のままであった。今回、研究グループはヘテロクマチンを構成するタンパク質「HP1」に結合するタンパク質の種類を質量分析器を用いたプロテオミクス法を用いて特定したほか、分子イメージングや次世代シーケンサを用いてタンパク質の働きの解明を行ったところ、不活性X染色体に多く存在するタンパク質HBiX1を発見。

さらに解析を進めたところ、HBiX1がほかのタンパク質(HP1やSMCHD1)やRNA(XIST)と連携し、遺伝情報が読み取れないように凝縮したヘテロクマチン構造を形成していること、ならびにこれらのタンパク質の働きを阻止するとヘテロクマチン構造自体が消滅することが確認されたという。

また、HBiX1やSMCHD1はX染色体以外の染色体にも存在することから、今回の結果は、染色体上のさまざまな領域の凝縮に関わっていることを示唆するものであり、研究グループでは、ヒトの発生や分化に関わる遺伝情報の読み取りを緻密に抑制し、細胞間の違いを生み出す遺伝子の発現パターンを規定していると考えられることから、凝縮した染色体構造が正しく作られないと、さまざまな疾患が引き起こされると考えられるとコメントしている。

女性の正常な細胞核とHBiX1の働きを阻止した細胞核の違い

今後、今回の成果をもとにHBiX1やSMCHD1の働きを人為的に操作することで、細胞の性質を容易に改変できる方法に発展する可能性があると期待されると説明しており、具体的にはiPS 細胞の作成法の改善への応用や、染色体を3本持つトリソミーによる遺伝的な障害の緩和につながるほか、近年、研究グループが見出しているタンパク質が、ある種の筋ジストロフィーの発症やがんの発症に関与されていることが報告されてきており、それらの効果的な治療法の開発にもつながることが期待されるとしている。

今回の研究の成果