毎週日曜日、午後5時から午後5時55分まで放送されているラジオドラマ『NISSAN あ、安部礼司~beyond the average~』(TOKYO FM ほか全国37局ネット)をご存じだろうか?

毎回、「ごくごく普通で昭和生まれのナイスサラリーマン……」という冒頭のナレーションから始まる物語は、1971年生まれの"ごく平均的な サラリーマン「安部礼司」を主人公として、東京・神田神保町にある中堅企業「大日本ジェネラル」を舞台に、主人公の同僚や妻、かつての同級生らによるオフィス模様や日常のやりとりがコミカルに展開されていく。

「日曜の黄昏時に贈る鼻歌みたいな応援歌」をキャッチフレーズとする『あ、安部礼司』の特徴は、ファンとの一体感にある。番組がスタートした2006年に35歳だった「安部礼司」は、今や41歳になった。『あ、安部礼司』は登場人物がリスナーと共に歳を重ね、成長を遂げていく物語なのである。

番組開始後、『あ、安部礼司』は、「安部礼司」と同世代である団塊ジュニア層を中心に人気を集め、TOKYO FMの他の番組とのコラボレーションやテレビドラマ化、漫画化、さらには番組から生まれたコンピレーションアルバムや絵本を発売するなど、新たな取り組みによって世界観を拡大してきた。この2月からは、番組出演者が音声でおすすめスポットをナビゲーションする『「ご当地ドライブナビ首都圏版」(iPhoneアプリ)』の無料ダウンロードも始まった。

リスナー参加型のイベントも、北海道から九州に至るまで全国各地で実施されている。2009年に渋谷C.C.レモンホール(当時)で開催された「安部礼司」の人前結婚式には、2,000人ものリスナーが全国からお祝いに駆けつけた。2012年には「安部礼司」らが震災後の岩手県から「希望郷いわて文化大使」に任命され、釜石で開催された任命式には県外からの参加者も含めて1,400人のリスナーが集まった。

今年も、1月27日に日産札幌ギャラリーで生トークショーが行われ、多くのリスナーが訪れたが、特筆すべきは1月12日、13日に横浜の日産グローバル本社ギャラリーで開催された「NISSAN あ、安部礼司 フェスティバル 2013」(「あべフェス2013」)だろう。

「あべフェス2013」

2日間で33,000人ものリスナーを動員した「あべフェス2013」は、「大人になりきれていない大人たち」でもある40歳前後のリスナーのために二回目の成人式として「大人の成人式」を開催したり、20年前を振り返る展示やスペシャルゲストの登場、数千人同時のパブリックリスニングなど、来場者を盛り上げるイベントや仕掛けに満ち溢れていた。

そして何より「安部礼司」本人によるスピーチなど、同番組の声優陣が"登場人物本人として会場に現れることで、リスナーとの一体感を生み出していた。

「あべフェス2013」では、『あ、安部礼司』の“音楽番組”としての側面も、大いに盛り込まれていた。最近のレギュラー放送では、大黒摩季の「Da・Ka・Ra」や電気グルーヴの「Shangri-La」、ザ・ブルーハーツの「情熱のバラ」など、"安部礼司世代の青春を思い起こさせる「今週のツボ曲」が流されているが「あべフェス2013」には辛島美登里さんと平原綾香さんが公開収録に駆けつけ、尾崎豊を歌うなど、会場を盛り上げた。

同番組の一社提供のスポンサーである日産・宣伝部課長の高橋秀之さんは、「古いメディアと思われがちなラジオですが、新しい挑戦によってさまざまな実績や現象を産んできた『あ、安部礼司』は、『今までなかったワクワク』をユーザーにお届けしたい私たちの考えと、まさに一致するものです」と語る。

日産・宣伝部課長の高橋秀之さん

また、「全国ネットの番組であることを生かし、各地で公開収録やトークショー、握手会などさまざまな番組イベントを施していますが、これによって地域との接点やつながりを創ることに成功し、年々ファン層の拡大も進んでいます」とのこと。  実際、『あ、安部礼司』が開催する全国各地のイベントには、子どもを伴って家族で参加する人たちや、若いカップルの姿も多く見受けられるという。

さらに、「ツイッターやmixiなどのSNSを通じて全国のリスナーがつながっていて、イベント情報や番組情報を交換したり、番組ゆかりの土地やお店を訪問するといったオフ会などもあるようです」と高橋さん。

「私たちにとっても、月曜日が待ち遠しくなるような気持ちになる番組を日曜日夕方にお届けし続けることは、主要リスナーでもある30代、40代の皆さんとの絆の構築につながっています」と、スポンサードの意義を語ってくれた。

「あべフェス2013」のグランドフィナーレは、槇原敬之さん作詞作曲の番組テーマソング「The Average Man Keeps Walking」を、出演者と会場にいる数千人のリスナーが合唱するというものだったが、その会場の片隅には、感動の表情を浮かべながら一緒に口ずさむ高橋さんの姿があった。スポンサーの立場でもあり、そしておそらくは誰よりも『あ、安部礼司』ファンでもある高橋さん。

そして、東日本大震災から二年になろうとする2013年3月10日。「希望郷いわて文化大使」である「安部礼司」たちは岩手県遠野市民センターで公開生放送を行い、復興への思いを集まったリスナー約900人と共有した。

今回の取材で、リスナーとの一体感を生み出し、想像力に訴えかける取り組みに触れ、まだまだ人の心を動かす力を持った媒体であると感じた。