凸版印刷は、同社オリジナル書体である「凸版明朝体」および「凸版ゴシック体」をもとに、電子出版コンテンツを読みやすくする新書体の開発に着手し、試作を行ったと発表した。まずは本文用明朝体について、2013年夏頃のサンプル出荷を目指す。

新書体の試作フォント (c)Toppan Printing Co., Ltd.

電子端末で文字を読む機会が急速に増えていることを受け、同社はデジタルコンテンツ全般において、読みやすく、作品のイメージを受け取りやすい新たな書体を開発すると決定。開発される新書体は、本文用の新しい明朝体およびゴシック体、見出し用の文字、欧文の文字などで、これら計5書体を2016年春までに提供開始したいとしている。各書体の詳細は以下のとおり。

(1) 本文用の新しい明朝体

ペンで書いたようなキレのある仮名など、「凸版明朝体」の特長を最大限に引き出し、電子出版コンテンツの読みやすさを考えて設計された書体。従来の印刷用書体は、印刷工程による文字の太り(つぶれ)などを想定して細身に設計されていたが、デジタル表示ではその心配が要らないことから、文字の線の太さをデザインしなおす。また、日本語の長文を縦組で表現した場合に最大の読み心地が得られるよう、デザインを改良する。

(2) 本文用の新しいゴシック体

「凸版ゴシック体」の特長を最大限に引き出し、電子コンテンツの読みやすさを考慮し設計された書体。日本語文章における横文字の増加や、文章を横組で組む機会が増えていることから、長文を横組で表現した場合に最大の読み心地が得られるようにデザインを改良する。これまでのゴシック体のデザインで多く見られた文字の上下のラインをそろえるデザインではなく、文字が持つ固有の大きさや形を尊重し、文章に自然な抑揚を持たせることにより、リズム感があり心地よく読み進められるデザインを実現する。

(3) 見出し用の文字

見出し用の明朝体およびゴシック体は、活字の伝統を引き継ぎ、力強い筆勢を感じさせる見出し文字を復刻させるべく、見出し用として使われていた「36ポイント活字」をもとに新たにデザインする。

(4) 欧文の文字

欧文は、これまでの凸版書体として使われていたものをベースとせず、電子媒体上で和文と欧文の違いが見えるような、さらに文章中で存在感があるような欧文として新たにデザインする。特に、ゴシック用の欧文では、サンセリフではなくスラブセリフ系の書体を設計し、力強い線画でリズム感のある和文のイメージにマッチさせる。

これら新書体の試作フォントに対し、ブックデザイナーの祖父江慎氏は「明朝はタテ、ゴシックはヨコという考えは特徴が明快で素晴らしい。明朝は感じが良いところに落ち着いた。少し綺麗になりすぎた感じはあるが読みやすい。ゴシックはとかく整理されやすく、現代の書体はどれも似たようなものであるのに対して試作ゴシックは書道的な風合いのある少し崩れたゴシックで良い。このまま突き詰めてほしい。また、画面の小さいデジタルデバイスでは、和文と欧文の差が見えた方が読みやすいと思う。今回の欧文はあえて和文にそろえすぎておらず未来的で大賛成である」とコメント。

また、書体デザイナー・書体史研究家の小宮山博史氏は「試作フォントは、随分トッパンらしい特徴が出ており全体的に落ち着いた感じになっていて良いと思う。人が文字を読むというのは機械的ではなく息づかいのある書体でないといけない。読む側はかなり保守的であり、いままでをベストだと思うところがあるが、試作フォントはそこまで変わっていないので移行はスムースにいくだろう。書体という文化性を考えると、書体は時代にあった手直しをその都度行うべきだと思う」などとコメントを寄せている。