産業技術総合研究所(産総研)とキヤノンアネルバは3月18日、ドライプロセスだけで形成したカドミウム(Cd)を含まないCIGS太陽電池において、従来の手法である部分的にウェットプロセス(溶液成長法)を用いた場合に近い光電変換効率を実現する技術を開発したと発表した。

詳細は、3月27日~30日に神奈川工科大学(神奈川県厚木市)で開催される第60回応用物理学会春季学術講演会にて発表される。

図1 ドライプロセスであるスパッタリングによりバッファ層を形成したCIGS小面積セル(左)と太陽電池の特性(右)

CIGS太陽電池は、光電変換効率が高い、経年劣化が少なく長期信頼性に優れるといった特徴を持つ高性能な薄膜太陽電池の1つであり、近年多数のメーカーによって量産化が進められている。太陽電池には性能を決めるpn接合の形成を担うバッファ層が存在するが、CIGS太陽電池でも高効率化のキーポイントの1つとなっている。現在量産されているCIGS太陽電池では、光吸収層のCIGSはドライプロセスである多元蒸着法やスパッタリング+セレン化法といった方法で形成されているのに対し、バッファ層はウエットプロセスである溶液成長法(CBD法)により形成された硫化カドミウム(CdS)が多く用いられている。しかし、CdSは有害物質であるカドミウムを含んでおり、環境負荷低減のためにバッファ層のCdフリー化が求められている。また、ドライプロセスによるバッファ層形成の研究開発も進められており、CIGS太陽電池の量産工程への適用検討も行われてきたが、大規模な量産化に成功した例はこれまでなかったという。

CIGS太陽電池におけるバッファ層のCdフリー化としては、例えば溶液成長法を用いたものでは、硫化酸化亜鉛(ZnO,S)、硫化インジウム(InS3)をバッファ層として、CdSに近い光電変換効率の実現が報告されているなど、いくつかの例は報告されているが、CIGS上にバッファ層をドライプロセスであるスパッタリングで形成したものでは、高い光電変換効率は達成されていなかった。

今回の研究は、CIGS太陽電池のバッファ層にCdを含まず、スパッタリングのみによって形成する技術の確立を目指して進められたもので、多元蒸着三段階法により形成したCIGSを用いて、従来技術である溶液成長法により形成したCdSをバッファ層とした小面積CIGSセルを作製。このセルを比較対象として、バッファ層のみをスパッタリングにより形成したZnMgOに置き換え、その組成と成膜条件の最適化を進めたところ、スパッタリングのみでバッファ層を形成した太陽電池において、光電変換効率16.2%を達成したという。

図2 評価を行ったCIGS太陽電池のセル構成

図3 ドライプロセスであるスパッタリングにより形成したZnMgOバッファ層のCIGS太陽電池特性(反射防止膜あり)

なお、この値は、従来技術を用いてバッファ層を形成した太陽電池の光電変換効率17.5%に近いもので、この結果、Cdフリーのオールドライプロセスでも、高い光電変換効率を持つCIGS太陽電池を実現できることが判明したと研究グループでは説明しており、今後は、オールドライプロセスでさらなる光電変換効率の向上を目指すとともに、大面積基板への適用や、装置の事業化に向けた開発を進めていく方針としている。