「外套膜組織片を移植し、真珠核の周りに真珠袋を形成させ、これに真珠を作らせる」という手法は、100年以上前に日本で開発された真珠の養殖技術であるが、実際に供与貝の外套膜組織片由来の細胞が、移植先の母貝の体内に存在し続け、どのように真珠形成に関与しているかは不明のままであった。

アコヤガイの貝殻と真珠および貝殻を形成する外套膜

真珠養殖の方法

水産総合研究センター(水研センター)と麻布大学、三重県水産研究所の研究チームは、これまでの研究において、アコヤガイのDNAを調べ、真珠層形成に関与するN16遺伝子およびN19 遺伝子が、アコヤガイの個体間で塩基配列が異なることを明らかにしていた。今回の調査では、供与貝の外套膜、真珠袋、母貝の外套膜で働いているこれら2つの遺伝子の塩基配列を決定し、PCR-RFLP法で塩基配列の違いを解析して比較を行った。

今回の研究の概要

この結果、供与貝と挿核12カ月後にサンプリングした母貝との比較、供与貝と挿核18カ月後にサンプリングした母貝との比較のいずれにおいても、塩基配列にもとづいて分けられた遺伝子型や、PCR-RFLP法で得られた各遺伝子型のバンドは、真珠袋と供与貝の外套膜が同じで、母貝の外套膜が異なっていることが示され、このことから移植してから18カ月目までの真珠袋では、供与貝と同じ塩基配列であるN16遺伝子とN19遺伝子が働いていることが確認されたという。

供与貝外套膜と真珠袋および母貝外套膜におけるN16とN19遺伝子の遺伝子型

研究チームでは、この結果について、真珠袋で供与貝の外套膜組織片由来の細胞が存在し続け、真珠形成に関与していることを示すものとするほか、真珠形成に関与する遺伝子の塩基配列の違いは、真珠を形成する能力にも影響を及ぼす可能性があると説明している。また、真珠層を形成するのは供与貝由来の真珠袋であることから、母貝は栄養や酸素、真珠層の材料となる物質などを真珠袋の細胞に与え、真珠袋の細胞から出た不要な老廃物などは捨て去るというような、真珠袋の細胞が生き続けて真珠層を形成できる環境を提供する、という役割を担うと考えられるとしている。

PCR-RFLP法で得られた供与貝特有のバンドと母貝特有のバンド

なお研究チームでは、今回の結果から真珠形成に関与する遺伝子を利用して、高品質真珠を効率よく生産するアコヤガイの開発につながると期待を示すほか、今後、真珠養殖におけるアコヤガイの供与貝と母貝それぞれの役割を明らかにすることで、アコヤガイの飼育管理の改善にもつながることが考えらえるとコメントしている。

今回の研究は、水研センター 増養殖研究所の正岡哲治氏、麻布大学環境保健学部の佐俣哲朗氏、同 野川ちひろし、同 馬場博子氏、麻布大学環境保健学部の小瀧朋弘氏、同 中川葵氏、同 佐藤瑞紀氏、三重県水産研究所の青木秀夫氏、水研センター中央水産研究所の藤原篤志氏、水産総合研究センター研究推進部の小林敬典氏らによるもの。詳細は2013年3月25日付の「Aquaculture」に掲載される予定。