WOWOWシネマでは3月11日(月)から14日(木)の4日間、「映画で"観る"伊坂幸太郎の世界」と題し、人気作家・伊坂幸太郎原作の映画『ポテチ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュストーリー』『ゴールデンスランバー』の4作品を1日1本ずつ放送する。そこで、独自の世界観を持つ伊坂作品の魅力および映画の見どころについて、すべての作品の監督を務めている中村義洋監督と、4作品すべてに出演している俳優・濱田岳に話を聞いた。

中村義洋監督(左)と濱田岳

――まず、今回の特集のオープニングを飾るテレビ初放送の『ポテチ』ですが、お二人にとって最も思い入れの強いシーンというと……

中村「やっぱりラストの野球場ですね。撮影スケジュール8日間のうち、最後の3日間を球場で撮影しました。後ろ向きな言い方ではなく、ここさえうまく行けばなんとかなる作品だと思うんですよ。仙台のサポートメンバーにも協力いただいてエキストラとしてたくさんの人に集まってもらって、特に苦労もなく撮影出来ました」

濱田「僕も同じです。あのシーンでは自分でも何でだろうと思うくらいボロボロ涙が出てきて。その場にいたみなさん全員が僕を引っ張ってくれたと思うし、最後の撮影ということもあったし、今振り返ってもいろいろな感情が入り混じってホントに不思議な体験をしたと思います」

――ほかにはいかがでしょう?

濱田「物語の冒頭、僕が演じる今村くんと大森南朋さん演じる黒澤が会話するシーンで、今村くんがニュートンの万有引力の法則と同じことを見つけたと言うんです。撮るまではギャグのつもりでいたんですけど、いざ声に出して芝居をしてみると、『あれ、もしかして今村くんって天才?』って思い始めて(笑)。彼の魅力に触れたという意味ではそのシーンは印象深いですね」

中村「実はあのシーンは伊坂さんの『ラッシュライフ』という作品の中のやりとりを引用しているんですが、僕は伊坂幸太郎のすべての作品の中であのシーンが一番好きで。だからどうしても使いたかったんです」

中村義洋(なかむら よしひろ)
1970年8月25日生まれ。茨城県出身。主な作品に『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006年)、『ゴールデンスランバー』(2010年)、『ちょんまげぷりん』(2010年)『みなさん、さようなら』(2013年)

濱田「僕はそういう今村くんの純粋な部分を汚してしまったら、もう彼はいなくなってしまうと思ったので、演じる時やセリフを言う時は変にスレないよう心がけました。ただ、詳しくは言えませんが、野球場で母親(石田えり)に『母ちゃんも尾崎見たかった?』って聞くシーンは、事情を知ってるだけに辛かったですね。でも、改めて監督とも相談して、その言葉には母親を試そうという気持ちなどまったくないと納得してからは、より一層、彼の純粋さに胸を打たれました」

――では、お二人が考える伊坂作品の魅力とは何でしょうか?

中村「僕が思うのは、敷居が低いというか、世の中に本当にフツーにいる人の感情描写がすごい上手くて、読む側がちゃんと納得いくものになっているところ。そこから大小さまざまな事件が起こるところがリアルで好きなんです。『アヒルと鴨のコインロッカー』にしても、地方都市に引っ越して来てこれから大変なことに遭遇する大学生が、まず最初に新居の風呂場のカビに気がついてブルーになるんですよね(笑)。もしかしたらその描写は必要ないのかもしれないけど、僕はそれを読んで、伊坂幸太郎という小説家を信用できたんです」

1988年6月28日生まれ。東京都出身。1999年、ドラマ『ひとりぼっちの君に』でデビュー。中村監督の『アヒルと鴨のコインロッカー』では第22回 高崎映画祭最優秀主演男優賞を受賞した。『みなさん、さようなら』(2013年)ほか、多数の映画・ドラマに出演。『はじまりのみち』(6月公開予定)、『俺はまだ本気出してないだけ』(6月公開予定)などの出演作が控えている

――濱田さんはどうですか?

濱田「コミカルなシーンはどれも演じていてとっても楽しくて、きっと伊坂さんもそういうのを書くのが好きなんじゃないかなって思いますね。もちろん狙って書いている部分もあると思いますが、それをあまり感じさせない飄々としたところが僕は好きです。原作を読んでというよりは、何作もやらせていただいてそう感じます」

中村「たとえ原作にないシーンでも、伊坂さんのテイストを受け継いで脚本にしている部分もありますから。伊坂さんも岳のことが好きだから、そこらへんは小説と映画の間で回り巡っている感覚がありますね。あと、泣かすところに笑いを入れるというか、シリアスな部分にユーモアを交えるところも。『マリアビートル』という小説のクライマックスなんかは真骨頂だと思います」

――ところで、とても仲の良さそうなお二人ですが、あえてこの場でお互いに何か言いたいことがあれば、最後にぜひ。

濱田「特にないです(笑)。生意気ですけど現場では監督にけっこう意見を言ったりもしますし、譲らないところは譲らないですし。監督には作品の中でいろいろドッキリ演出を仕掛けられてビクビクしてますが、常にビクついているわけではないので(笑)」

中村「でも、こないだ二人で別の映画のキャンペーンで大阪に新幹線で行ったんですけど、岳はなぜか僕の隣の席にずっと座って話してましたね、新大阪くらいまで」

濱田「それは、まぁ……暇ですし、わざわざ黙って離れて座るのもねぇ(笑)。大きなサイズのコーヒーも持って座る気まんまんで、その時はもう監督とは思ってないですから(笑)」

「映画で"観る"伊坂幸太郎の世界」はWOWOWシネマにて3月11日(月)から14日(木)まで放送。スケジュールは以下の通り。3月11日(月)21:00~『ポテチ』、3月12日(火)21:00~『アヒルと鴨のコインロッカー』、3月13日(水)21:00~『フィッシュストーリー』、3月14日(木)21:00~『ゴールデンスランバー』

『ポテチ』STORY

空き巣を生業としている青年・今村(濱田岳)はある日、恋人の若葉(木村文乃)と共に、自分と同じ生年月日に同じ病院で生まれたプロ野球選手・尾崎(阿部亮平)の部屋に忍び込む。だがその時、尾崎の家の電話が鳴る。留守電に残されたメッセージを聞いた二人は、電話をかけて来た女性に会いに行くが……。一昨年、東日本大震災直後の仙台でオールロケされたことも話題になった。2012年公開。テレビ初放送。