不動産アドバイザーに聞く。賃貸で絵を飾るために壁に穴を開けるのはOK?

賃貸の部屋で、例えばエアコンを取り付けたり、絵や写真をディスプレイするのに壁にフックをつけて穴を開けたり、トイレにウォシュレットをつけたりと、どこまでなら自分でリフォームを行ってもOKなのか、敷金の返金に影響しないのか、気になるところです。

そこで、「快適で安全な一人暮らし」をモットーに活躍する不動産アドバイザーの穂積啓子さんに詳細を伺いました。


■建物や設備の「年月による自然な劣化」は家主が負担する

――賃貸の部屋を退去するとき、借り主は、「原状回復の義務」があると聞きます。原状回復とは具体的にどういうことを言うのでしょうか。

穂積さん:退去するとき、家主と借り主は「賃貸契約を解除」しますが、そのとき借り主は、「借りたときの状態、つまり、部屋を元に戻す」という義務があります。故意や不自然な汚れ、傷については、敷金からその修理代、弁償について差し引かれることがあります。

ただし、経年によって、当然、建物や家具、壁紙、設備は自然に劣化していきます。その分は弁償する義務や敷金から差し引かれることはありません。

整理しますと、「借り主による、故意や過失、通常の使用を超える度が過ぎた利用法による損耗(そんもう)については、借り主が負担すべき費用」と考えます。

一方で、「次の入居者を確保する目的で行う設備の交換、例えば、壁紙やじゅうたん、キッチンや洗面所、トイレ、バスルームなど、経年変化や通常使用による損耗の修繕は、家主が負担すべき費用」となります。これらは、月々の家賃に含まれているわけです。

――「どこまでが自然な劣化なのか」でトラブルになることが多いと聞きます。
穂積さん:賃貸住宅の契約上でのトラブルで最も多いのは、この「原状回復に関わること」だという報告があります。

そこで、平成10年に国土交通省が、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定して公開しています。最新の平成23年8月版は、ネット上に書面で公開しているので誰でも見ることができます。

※国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」再改訂版http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf

このガイドラインに準じる形で、東京都や大阪府はじめ、自治体の多くが、トラブルになったときのためのガイドラインや、相談先をホームページなどで公開しています。

――原状回復の義務について、具体的に教えてください。
穂積さん:家主と借り主に分けて、負担するべき内容を挙げます。
<家主が負担するべきこと>
・壁に貼ったポスターや絵画の跡
・日の光があたることによる、壁、天井、床、クロスなどの日焼けや経年劣化
・エアコン、冷蔵庫、洗濯機、照明など、家電による壁、天井、床、クロスなどの黒ズミ(電気焼け)
・机やソファ、テレビなどの家具を置くことによる、カーペットや畳のへこみ跡
・クリーニングで汚れが落とせる、壁、天井、床、クロスなどのタバコのヤニの跡
・畳の裏返し、表替え
・フローリングの自然損耗による色落ち
・網戸の張り替え
・地震や強風など自然災害で破損したガラス(破損した時点で家主に報告する義務があります)
・網入りガラスの亀裂
・エアコン設置によるビスの穴、跡
・エアコンの内部洗浄
・浴槽、風呂釜、洗面所、便器、インドアなど設備品の取り換え
・全体のハウスクリーニング(借り主が通常の清掃を実施いていた場合)
・鍵の交換費用(借り主による破損、紛失がない場合)
など

<借り主が負担すべきこと>
・クリーニングで落ちない、壁、天井、床、クロスなどの汚れ
・台所で通常使用の掃除を怠ったことによる油汚れ
・結露を放置したことで拡大したカビ・汚れ
・引越時や、家具等によるフローリングのキズ
・クーラーの水漏れを放置したためにできた壁の腐食
・棚や重量な絵画などの設置で壁の下地ボードの張り替えが必要なクギ穴、ネジ穴
・故意による落書き、壁のへこみなどの損耗
など

――つまり、借り主としては、「無理な使い方をして設備を破損させた」とか、「通常なら掃除をするだろうところを怠ったためにひどい汚れになった」というときに、原状回復の義務が発生するということですね。
穂積さん:そういうことです。

ここで、借り主によるうっかりした行動で、原状回復の義務が発生してしまった例を紹介しておきましょう。

・ウォッシュレットを自分の費用で取りつけたとき、便座を捨ててしまったため、退去のときに家主にそのウォッシュレットを置いていくと伝えたが、これは認められず→便座費用を弁償
・エアコンが設備としてついていたが、リモコンをうっかり持って出てしまった→リモコン代を弁償
・浄水器を自分の費用で設置したが、はずした水道栓をなくした→水道栓代を弁償
・シャワーヘッドを取り外して違うものに変えたとき、元のヘッドを捨ててしまった→シャワーヘッド代を弁償
・設備としてついていた照明を2年目に経年劣化だと判断して自分の費用で取り換え、元の照明を捨てた→照明代を弁償。この場合、取り換える前に家主に報告する義務があったが、それをしなかったので、経年劣化とは認められなかった

――例えば照明の例では、入居時に設備としてついてあってもそれが気に入らず、取り換えたい場合はどうすればいいのでしょうか。
穂積さん:入居時に、「この照明は不要なので取り外してください」と依頼してください。その上で、契約書の設備の覧に、「照明器具は返却」と明記してもらいます。この場合、原状回復の義務は生じません。

――もし、原状回復義務がないのに、弁償や費用を請求された場合はどうすればいいでしょうか。
穂積さん:はっきりと、「国土国通省のガイドラインによると、原状回復の義務はありません」と伝えましょう。ガイドラインは法律ではありませんが、訴訟になったときの判例では、ほとんどの場合、ガイドラインに沿った判決が出ています。

トラブルになったときは、泣き寝入りすることなく、管理会社や不動産業者、または、自治体の相談窓口に相談してください。少額訴訟の例も増えています。

――以前の退去のとき、ハウスクリーニング代を5万円請求され、敷金から差し引かれました。もちろん、掃除は毎日して、退去日にも丁寧に掃除をして出ましたが、支払う義務はなかったのですよね。
穂積さん:ハウスクリーニング代については、よく相談を受けます。経年劣化、自然損耗以外で、特にひどい汚れを放置したままなど以外は支払う義務はありません。また、支払ったあとでも、返還請求ができる場合があります。

ただ、最近、特に敷金・礼金ゼロ円など格安物件では、「特約」として、退去時のハウスクリーニング代や鍵の交換費用を明記することが増えています。契約前の重要事項説明時に伝えられる項目の一つですから、その時点でよく確認し、異議がある場合は交渉するか、契約しないなど、判断してください。

さらに、契約書に明記されていて押印したとしても、家主からの請求がすべて認められるものではありません。そもそもの契約内容がガイドラインに沿っていないことがあるからです。

また、事前にハウスクリーニング代についてなど、契約書に明記されているのに借り主に説明しない業者もいると聞きます。ガイドラインに照らし、納得できない場合は相談機関に相談しましょう。

――うっ、悔しいです。次はそういうことがないよう、情報を集めておきます。ありがとうございました。
原状回復に関するトラブルがそれほど多いと言う事実、また、ガイドラインの情報を知っておくこと。これが解約時のトラブルや、過剰請求から身を守ることにつながりそうです。

監修:穂積啓子氏

「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た! ~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子 東京書籍 1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。

(藤井空/ユンブル)

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