ご当地アイドルの先駆けとなった弘前の「りんご娘」(c)RINGO MUSIC

4月にスタートする次のNHK朝ドラは、宮藤官九郎脚本の「あまちゃん」。岩手県の北三陸を舞台に、海女を目指す少女がご当地アイドルとなるといったストーリーだが、東北地方には朝ドラに負けないような、感動の物語を紡いでいるご当地アイドルたちがいる。

地方発信型アイドルのトップランナー、青森県の「りんご娘」

いまや日本全国で雨後の竹の子のように誕生、乱立しているご当地アイドル。その先駆けとなったのが、青森県弘前市の「りんご娘」である。ベタなユニット名だが、押しも押されもせぬ地方発信型アイドルのトップランナーである。

誕生は今から12年前の平成12年(2000年)にさかのぼる。「当時はまだ、ご当地アイドルやローカルアイドルといった言葉も概念もなかった時代でしたからねぇ」と、結成時の苦労を語ってくれたのは、「りんご娘」の運営を行うリンゴミュージックの樋川由佳子さんである。

「仕掛人は私の主人なんです。彼が東京から故郷の弘前市にUターンしてきて驚いたのが、地元の元気のなさ。なんとかならないものかと考え、その頃人気絶頂だった『モーニング娘。』をまねて、アイドルで町おこしすることを思いついたのが発端。ですが最初は、教育委員会などから怪しいとずいぶん警戒されまして……」と苦笑する。

それがいまやテレビ2本、ラジオ2本のレギュラー番組を持ち、コマーシャルにも出演。さらには弘前市や青森県の依頼を受けて、りんごをはじめとする地元の特産品を全国にPRする役割を任されるまでになった。地元での認知度は「ほぼ100%」(樋川さん)とのこと。全国屈指のご当地アイドル成功事例と言えるだろう。

被災地や福祉施設を慰問したりと、イベントでも大活躍だ(c)RINGO MUSIC

「りんご娘」は結成から現在までに、何度かメンバー入れ替えを行っていて、現在はとき(14歳)、金星(17歳)、 レットゴールド(22歳)の3人で構成される(今年4月にメンバー入れ替え予定)。“農業活性化アイドルユニット”というコンセプト通り、メンバー名がりんごの品種名で統一されているのだ。

また、津軽弁でトークするため親しみやすい雰囲気で、幅広い世代から支持されている。「追っかけのようなオタなファンはあまりいません。おじいちゃん、おばあちゃんから子供たちまでファミリー層の人気が高いんです。えっ、東京進出ですか? 全然そんなこと考えていませんよ」(樋川さん)。青森県に根ざす「りんご娘」の地元愛は揺るぎない。

仙台を基盤に全国制覇を狙う「ドロシーリトルハッピー」

地元密着の「りんご娘」と対照的に、宮城県仙台市に基盤を置きつつも全国制覇を夢見て活動しているのが「ドロシーリトルハッピー」である。仙台在住の5人から成るアイドルユニットで、2010年に結成され、翌2011年にはメジャーデビューを果たした。

もはやご当地アイドルとは呼べない!? 全国に羽ばたいた「ドロシーリトルハッピー」

メジャーデビューしたちょうどその頃、東日本大震災が東北を襲った。このため、仙台を中心とするイベントが全て中止になるなど、彼女たちは出足から大きなアクシデントに見舞われた。しかし逆に、それが「ドロシーリトルハッピー」を全国区アイドルに押し上げる作用も及ぼしたのだから皮肉である。

「ドロシーリトルハッピー」は、被災地の東北からデビューという話題性もあって、一躍注目のアイドルユニットになる。以降、全国的に人気が広がり、いまではトップアイドルの仲間入りを果たそうかという勢い。現在では東京での仕事が全体の80%を占め、仙台から天下取りを狙った伊達政宗のように、虎視眈々(たんたん)と全国制覇を狙っている。

震災、原発事故で町民は離散。それでも頑張る「NYTS」

東北には、“失われた”わが町の復興を夢見て歌うアイドルユニットもいる。福島県浪江町(なみえまち)の中高生5人組、「NYTS」だ。

福島県浪江町と聞いて、「えっ、あの浪江町!」と思った方も多いのではないだろうか。そう、浪江町は、原発事故による放射能汚染によって、住民の多くが避難生活を余儀なくされている町。役場は二本松市に、住民は東北や関東の各地に離散し、避難生活を送っている。そんな悲劇の町のアイドルユニットなのである。

辛くてもいつも笑顔を輝かせているアイドルユニット「NYTS」の5人

「NYTS」は平成21年(2009)に結成された。浪江町名物である「なみえ焼きそば」の宣伝活動を行うため、「浪江焼麺大国」(焼きそば業者の団体)が音頭を取って結成されたアイドルユニットだった。「N(なみえ)Y(焼きそば)T(たいこく)S(シャイン)」というのが名前の由来である。

浪江町名物の太麺焼きそば。B-1グランプリ上位入賞の常連である

しかし、2011年3月に起きた東日本大地震による地震、津波被害、さらには福島第一原発事故による放射能汚染によって、浪江町は前記したような住民離散という悲劇に見舞われた。常識的にはアイドル活動どころではない状況である。

けれど、「NYTS」はくじけなかった。結成当初から“高校生プロデューサー”としてユニットの運営に携わってきた常盤梨花さん(現在は大学生)は語る。

「町は大変な事態になりましたが、だからこそ『NYTS』が頑張らねばと考えたんです。私たちには、歌って踊って浪江町の人たちに元気と勇気と希望を届ける役割があるんだって……」。

その言葉通り。常盤さんは自ら作詞した「海のエール」にも、地元の人々を励ますメッセージを込めている。

「進んでいける 遠くにだって 目の前の壁は全部 ジャンプ台にしちゃう 流れつかんで 味方につけたら エンジン止まらないよ 支えてくれる 光る海の記憶 きっと帰るからね」(「海のエール」より抜粋)

浪江町の人たちに笑顔と元気を届けるのが「NYTS」の使命だ

月に1回程度集まり、復興イベントを展開

こうして、新メンバーも加えた中高生5人で「NYTS」は活動を継続することを決定したが、メンバーは住む場所もばらばら。中には埼玉県で避難生活を送るメンバーもいて、全員が集まれるのは月に1回程度だそうだが、復興イベントに参加するなど地道な活動を続けている。

現在、NHKのカメラが「NYTS」の活動を追いかけている。「NYTS」は2012年NHK-ETVの「ティーンズプロジェクト フレフレ」に出演したが、その反響の大きさもあって、NHKが彼女たちの活動ぶりに迫ったドキュメンタリー番組を制作しようと決定したらしい。

「NYTS」の生みの親ともいえる「浪江焼麺大国」の阿久津雅信さんも、「NYTS」にエールを送る。「今はまったく先が見えない浪江町ですが、私たちは焼きそばで町民の心の復興を目指します。NYTSには歌と踊りで元気を発信していってほしいと思います」。