歴史を感じさせる参道入り口

学問の神様、菅原道真(すがわらのみちざね)公をお祀りする天満宮の総本社といえば、そう! 福岡県太宰府市に鎮座する「太宰府天満宮」だ。この天満宮の参道には、魅力あふれるご当地スイーツの販売店と、あまり知られていない歴史的名所があると聞き、福岡在住のライター清田進が現地を訪問取材した。

受験シーズンには多くの学生が“神頼み”に訪れる大宰府天満宮(写真:太宰府市)

かの道真公に差し出された餅付きの梅の枝

この参道には、店先で焼いた餅の甘い香りを漂わせて客を誘う店がずらり、看板を競って並んでいる。芳(かぐわ)しい匂いの正体は「梅ケ枝餅(うめがえもち)」。

平安京での政争に破れて太宰府へ左遷された菅原道真公に、梅の枝に巻きつけた餅を差し上げた老婆がいたという伝説から、この焼き餅を「梅ケ枝餅」と呼ぶようになったという。天満宮と梅は当然深い縁があり、境内には季節になると約200種、6,000本超の白梅・紅梅が今も咲き乱れる。

参道に立ち並ぶ茶店の中で、筆者が太鼓判を押したいのは「茶房 きくち」だ。創業62年の歴史があり、現在のご主人は3代目。テレビがまだなかった昭和20年代から行列ができる店として評判だったという。

小さな狭い店舗であり、わずか3mほどしかない狭い間口の「きくち」の玄関では、お土産用の梅ケ枝餅が焼き型に詰められて次々と焼き上がっている。お土産は5個525円からだ。

「きくち」の入り口。そして焼きたての「梅ヶ枝餅」だ

狭い店内の奥から2階へと階段を上がってみると、書や絵が壁を飾る落ちついた雰囲気の茶房になっている。「いつも、おいしくありがとう。きくちさんゑ」とエッセイストの永六輔さんがしたためたものもあった。歌手の徳永英明さんもこの店のファンとして来店することがあり、配送の依頼もあるという。

茶房の定番、抹茶セット(600円)を注文すると、うっすらと焼き目がついた梅ケ枝餅と抹茶の濃いグリーンがおいしそうなスイーツセットが出てきた。焼きたての餅皮が、パリッとした歯ざわりを残してはじけるように破れると、小豆のやさしい甘みが広がって舌をつつむ。甘さにしつこさがない、実によい味だ。

単品でもおいしいが、抹茶とセットで楽しむのもまたいい

伝説的な女主人にあやかるもよし!

梅ヶ枝餅の老舗として知られる「お石茶屋」にも、この地を訪れたらぜひ足を運んでみてほしい。店名は、かつてここの女主人であった故・江崎イシさんの名前に由来しているのだが、この“おイシさん”が大変な美貌の持ち主であったためだろうか。高松宮殿下、野口雨情、犬養毅といった著名人も、度々訪れたと言われている。

伝説にあやかりたいなら、こちらの店で散策の足を休めるのもいいだろう。店は太宰府天満宮の北神宮一番奥にあるので、折り返し地点で休憩をとれるというのもまたいい。

●information
お石茶屋
福岡県太宰府市宰府4-7-43

また、最近の一番人気といえば「かさの家」だ。常に行列ができているので、大宰府を訪れたことがある人なら、「あ! きっとあの店だ!」と目星が付くはず。

古民家風の店内は広々していて、「参道で一番落ち着く場所」との評判も高い。食事メニューの用意があることや、民芸品を販売するギャラリーを併設していることも人気の理由かもしれない。食事を楽しんだあと、ここでお土産品を調達するのもありだろう。

外観も店内も雰囲気たっぷりの「かさの家」

ちなみに、福岡ならではのお土産を買いたいなら、太宰府駅と太宰府天満宮のちょうど中間地点にある「ひろしょう 太宰府店」がイチオシ! ここは、福岡に数ある明太子メーカーの中でも特に人気が高い店で、舌の肥えた芸能人のファンも多い。

「ひろしょう」の明太子は贈り物にも最適。添付の日高産昆布が味付けに使われているのも特徴

また、せっかくだから梅ヶ枝餅をお土産に買いたいわ! という方もご安心を。参道には宅配サービスのある店もたくさんあるので、現地からお友達に直接送ってあげよう。

参道には、かつては土佐藩士の定宿だった店も!

参道には、幕末の歴史に関わりを持つ茶店もある。参道に入ってすぐ右側の「松屋」がそれ。もともとは旅館であった同店は、幕末は薩摩藩士の定宿になっていたという。

参道に入ってすぐのところにある「松屋」は、薩摩藩士の定宿だった

そのすぐ隣、現在は土産物屋になっている「大野屋」もまた、土佐藩士の定宿だった。今はのどかなムードにあふれ、参拝客でにぎわう参道だが、かつては江戸幕府をたたきつぶそうと画策した勢力の中心人物とも言える高杉晋作、坂本龍馬、西郷隆盛が激しく往来した通りでもあったのである。

3人の他にも、後藤象二郎や大久保利通、中岡慎太郎などそうそうたる幕末明治の英雄たちがこれらの宿を使っていたという。

大宰府といえば菅原道真公がいの一番に思い浮かぶだろうが、意外にもこうした偉人たちとの関わりも深い場所なのだ。大宰府を訪れることがあるならぜひ、事前にウェブサイトなどで軽く予習しておこう。散策がより楽しくなること請け合いだ。

大宰府政庁跡地でパワーをもらう

また、参道を歩いたあとに立ち寄ってほしいのが九州国立博物館。太宰府天満宮内「宝物殿」から道なりに進んだ先に設置された“アクセストンネル”を利用すれば、道に迷うこともなく楽にたどりつける。

こちらの博物館は、「日本文化の形成をアジア史的観点からとらえる」ことを軸に据えて展示を行っているのが特徴。年間通して様々な特別展も楽しめるのがうれしい。

九州国立博物館。建物の大きさは160メートル×80メートル。周囲の緑を映しこむ壁面の美しさを見たいなら、ぜひとも昼間のうちに

ちなみに、現在開催中の特別展は、「ボストン美術館 日本美術の至宝」(3月17日まで)。4月16日からは「大ベトナム展」がスタートする予定だ。その他、子どもも一緒に楽しめるワークショップやコンサートも随時開催しているので、詳しいスケジュールは来館前にウェブサイトでチェックしよう。

こちらが大宰府政庁跡地。ゆったりした時間の流れに身を任せていると、心が洗われていくようだ(写真:太宰府市)

参道一帯の観光を楽しんだ後は、隣の西鉄五条駅まで移動して「大宰府政庁跡地」へどうぞ。パワースポットとして知られるこの場所なら、一日の疲れを癒やしてたっぷりエネルギーをチャージできるので、大宰府観光の〆にもぴったり。帰路につく前にぜひ、明日への英気を養って。

ライター清田進/福岡出身。九州の歴史文化をこよなく愛する。「船団アメの鳥船」提督、NPO文明アジア理事長