「ステルスマーケティング」とは? 日頃の業務で何気なく使っている専門用語。でもその言葉の意味、ちゃんと理解して使っていますか?

ソーシャルメディアマーケティングラボが、なんとなく分かっているつもりでも、実はよくわからなくて「もやもや」 している?!今さら人に聞くのはちょっと恥ずかしい、ウェブマーケティング用語を分かりやすく解説します。

 用語説明:【ステルスマーケティング(stealth marketing)、ステマ】

英語の 「Stealth」(隠れる、こっそりする、隠密)に由来、アメリカではアンダーカバー・マーケティング(Undercover marketing)とも呼ばれる。2011年ごろからステマと略されるようになった。

第三者的な立場を偽装して、特定の企業や製品について、宣伝と気付かれないように商品を宣伝したり、商品に関するクチコミの発信・伝播を図る行為。情報発信に関して企業の介在があるにもかかわらず、そのことを情報の受け手に隠したり偽ったりして行われる情報発信全般を指す。

身元や宣伝が目的であることを隠して行われるため消費者をだます側面があり、また「サクラ」や「やらせ」との線引きが困難であるため、消費者意識の高い先進諸国では法規制されているが、日本ではまだ法律による規制はなく、インターネット上のクチコミマーケティングを手掛けている事業者らによる任意団体「WOMマーケティング協議会(WOMJ)」が、業界の自主規制の目安としてガイドラインを公表するにとどまっている。

解説

 各国の法規制状況と日本における「クチコミ」と「広告」の線引き

イギリスでは2008年に「不公正取引から消費者を保護するための法律」(CPUTR)を制定、虚偽のクチコミやPRだと知らせない宣伝活動などを法律で規制。消費者保護の観点からステルスマーケティングは違法であると規定されています。

またアメリカの連邦取引委員会 (FTC) は、2009年12月に 「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」 を策定。広告だとの明示がないクチコミ広告において、広告主とブロガーなどの間に利益供与などの重大なつながり (Material connection) があった場合、「欺瞞的な行為又は慣行」とされ違法との判断もされています。

日本では消費者庁が、2011年に景品表示法のガイドライン「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を公表しており、その中でクチコミ情報について、事業者がクチコミサイトやブログにクチコミ情報を自ら掲載し、または第三者に依頼して掲載させ、そのクチコミ情報がその事業者の商品・サービスの内容または取引条件について、実際のものまたは競争事業者に係るものよりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となるとしました。

さらに2012年5月、インターネット消費者取引において事業者が守るべき事項をまとめたガイドラインの一部を改訂。クチコミサイトなどにおける、いわゆる「サクラ記事」などのステルスマーケティングの手法について、景表法(景品表示法)違反(不当表示の禁止)に該当する恐れがあるという旨を指摘する事項を追加しています。商品やサービスを提供する店舗を経営する事業者が、クチコミ投稿の代行を行う事業者に依頼してクチコミを多数書き込ませて評価を変動させ、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させることを問題として挙げていますが、具体的な表示が景品表示法に違反するか否かは、個々の事案ごとの判断とされています。

「ステマ」という略語の流行から進む拡大解釈による危険性

消費者の購買活動に「クチコミ」が大きく影響するようになったこと、ソーシャルメディアの普及によって情報の受け手が容易に発信者になり得るようになったことから、企業の広告やマーケティングにおいて「クチコミ」を活用する手法が重視されるようになりました。

しかし、話題の伝播と拡散をクチコミマーケティングの効果として追い求めるあまり、ソーシャルメディア上で影響力を持っている人に依頼し、広告であることを隠しながらネットで好意的な記事を書いてもらうというステルスマーケティングが、「第三者情報は宣伝よりも信頼性が高い」という消費者の期待を裏切る結果に繋がった事件が頻発。2012年にはグルメサイトでのクチコミ操作やオークションサイトでの虚偽のクチコミよる詐欺事件などでステルスマーケティングが一般にも認知されることとなり、「ステマ」という略語が流行語対象の候補に上がるほどの話題となりました。

一連の事件により「ステマ」が一般に広く認知されるに従い、消費者を欺く広告手法を指す意味から拡大解釈されはじめ、本来「ステマ」とはいえない企業の宣伝活動や情報発信活動までもが、揶揄されたり疑惑を持たれたりすることが懸念されています。

2012年3月に発表された「ステルスマーケティングに関する意識調査」(株式会社PR TIMES調べ)※の、どのような事例がステマに相当するかという質問では、「対価の受け取りや商品提供を明示した上で、個人ブログで特定の商品を紹介する」をステマだと捉える回答者が、広告関係者が29.1%だったのに対し、一般男女が42.0%、2ちゃんねらーでは55.1%と、その認識に大きな格差があることを明らかにしました。

※10~50代の一般男女500名、広告関係者200名、2ちゃんねるに継続投稿するユーザー(2ちゃんねらー)100名の合計800名を対象 http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000269.000000112.html

消費者にとって購買検討の材料にする情報の信憑性を判断するために重要な発信元と企業の関与に関して、事実が隠されたり偽られたりすることが本来のステルスマーケティングの悪弊ですが、その本意が理解されないままに、「ステマ」という言葉の独り歩きが進むと、正当なクチコミ行為を萎縮させたり、企業の情報発信活動への中傷・名誉毀損行為に繋がったり、さらに巧妙で悪質な情報操作の温床となることが危惧されるのです。

さらに、このようにソーシャルメディアを始めとしたインターネット上のマーケティングおよびパブリック・リレーションズ(PR、広報)活動全般が「ステマ」と見做されしまう風潮が広まると、クチコミによって伝播される情報自体の信頼性や効果を大きく揺るがすことに繋がり、その結果社会的に有意義な活動を行っている非営利な組織や個人の情報発信さえもPR的手法が取りづらくなるなど、消費者が有益な情報に接触する機会が大きく奪われることにもなりかねません。

重要性を増す情報発信者としての信頼と共感を培うコミュニケーション

インターネット上で自社がどのように語られているかは企業にとって重大な問題ですが、ステマという言葉の流行以降、企業の情報発信は以前よりも更に厳しい監視の目にさらされています。いくら企業がステマの定義を明らかにし、ステマにならないコミュニケーション活動を行おうとしたとしても「ステマだ!」という人が現れる危険があるということです。では消費者が「ステマ」だと判断する基準は何でしょう?情報発信者が誠実であるか、真摯であるか、信頼と共感に足る存在であるかを、日頃のマーケティング・コミュニケーションによって判断しているのではないでしょうか?

本来のクチコミというものは、情報の発信者との関係性に基づいた信頼と共感によって広がっていくものです。クチコミ重視時代のマーケティング戦略においては、自社が情報発信者として信頼されるだけではなく、「ファン」という立場で消費者への情報を橋渡ししてくれる第三者をいかに味方につけることが出来るかがポイントとなるでしょう。そうした面からもソーシャルメディアを通じた消費者との直接的な対話や交流がますます重要となってきていると言えるのです。

イラスト

速瀬 みさき

1993年よりホラー誌デビュー。漫画家として活動しながらエッセイ、イラスト、デザインなども手掛ける。近著コミックスは、メイド喫茶にバイトで潜入取材漫画。広告代理店勤務の夫を持ちながらも、マーケティングなにそれ?状態で執筆中!

公式サイト : http://www.nanacom.com/
Facebookページ : http://www.facebook.com/hayase.mi
用語解説:ソーシャルメディアマーケティングラボ

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