鹿児島大学、熊本大学、九州大学(九大)の3者は、新しい気孔の開閉メカニズムとして、「cGMP(cyclic guanosine monophosphate:環状グアノシンリン酸)」とそのニトロ化した「ニトロ-cGMP」がキーとなる仕組みを発見したと共同で発表した。

成果は、鹿児島大農学部の岩井純夫教授、熊本大大学院 生命科学研究部の赤池孝章教授、九大大学院 農学研究院の山田直隆助教らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、2月8日付けで米国植物科学会発行の植物科学専門誌「The Plant Cell」オンライン版に掲載された。

植物の表面には二酸化炭素を取り込み、酸素と水分を放出する小さな孔「気孔」がある。気孔の開閉制御は直接、その植物の生死にかかわってくるため、環境の変化を細胞内に伝えるためにさまざまな化合物が使われており、中でも活性酸素と一酸化窒素(NO)が重要な役割を持つことが近年報告されるようになってきた。

例えば従来、活性酸素はヒトでは細胞に障害をもたらし各種疾病や病態を引き起す悪い物質と考えられてきたが、細胞保護、細胞分化、増殖、細胞の制御などのシグナルを伝える分子であることが分かってきた。また、植物でも根の発達や種子発芽、病害抵抗性誘導の発現や気孔閉鎖の重要な要因になっているという。

画像1。シロイヌナズナの気孔

研究グループの一員である熊本大学の赤池教授らは、動物の細胞内においてNOと活性酸素から新規化合物のニトロ-cGMPが生成され、活性酸素・NOシグナルを細胞内で伝達する役割を担っていることをこれまでに報告しており、今回の研究では、そのニトロ-cGMPが気孔閉鎖に果たす役割についての検討が行われた。

研究では最初に、アブシジン酸で処理したシロイヌナズナ葉中に同化合物が存在することを確認し、その後、アブシジン酸によって生成誘導される活性酸素とNOが同化合物の生成を誘導することを明らかにしたとする。これまで植物での活性酸素シグナルとNOシグナルとの関係は明らかではなかったが、この結果から、ニトロ-cGMPでその2つが出会い統合されることが明らかになったとする。

また、ニトロ-cGMPはカルシウムを介してアニオン(陰イオン)チャンネルを活性化させ、孔辺細胞からアニオンを流出させることで気孔を閉じることも判明したという。ただし、ニトロ化されていない裸のcGMPが持つ気孔開口能力はニトロ化したものでは確認されなかったとのことで、今後、これを活用して気孔の開閉を調節することができるようになれば、植物の光合成能力と水分損失を制御できるようになる可能性がでてくるため、将来的には、食料生産性の向上、乾燥に強い作物の開発や大気中の二酸化炭素削減にもつながることが期待されると、研究グループではコメントしている。

画像2。免疫染色。孔辺細胞に存在する8-ニトロcGMPが緑色に染まっている

画像3。過酸化水素およびNO処理による8-ニトロcGMP 含量の増加。LC-MS/MSにより測定

画像4。8-ニトロcGMPシグナル伝達モデル