立命館大学は2月6日、PIリサーチとの共同研究によりマイクロプラズマから引き出されて、高エネルギー状態になった電子が、AlGaN多重量子井戸を励起する際に深紫外光を出すという仕組みを用いた新しい発光の方法「マイクロプラズマ励起大面積高出力深紫外発光素子(MicroPlasma Excited Deep Ultraviolet Light Emitting Device:MIPE)」の開発に成功したと発表した。

成果は、立命館グローバルイノベーション研究機構(R-GIRO)の青柳克信 特別招聘教授と、PIリサーチの黒瀬範子・主任研究員らによるもの。研究の詳細な内容は、1月31日付けで米国物理学会誌「Applied Physics Letters」電子版に掲載された。

深紫外光は、波長域200~350nmの光で、DNAとの相互作用が強く、インフルエンザウイルスやノロウイルスあるいはカンジタなどの真菌類の殺菌や無害化に有効であることが知られており、ウイルスや菌などの遺伝子の耐性化を伴わないクリーンな殺菌技術として水や動植物の殺菌、病院や家庭での空気殺菌や器具殺菌のほか、難分解物質の分解や化学物質の合成などへの応用、医療分野への応用といったように幅広い分野での利用が期待されている。

画像1。深紫外の波長域とその応用ならびにMIPEで実現できた波長

これまで、深紫外光を発生させるためには主に水銀ランプ(波長254nm)が用いられてきたが、波長が可変でないほか、寿命が短いなどの問題があった。また、近年、水銀の環境への影響が考慮されるようになってきており、2013年1月に国連の政府間交渉で合意された水銀条約(水俣条約)により2013年からその使用が規制され、2020年以降、製造や輸出入が原則禁止されることとなった。そのため、深紫外光市場の9割を占めると言われる水銀ランプを代替する新たな光源の開発が求められていた。

東京農工大学とトクヤマが2013年1月10日に世界トップクラスの出力特性を有する「深紫外線発光ダイオード(LED)」を開発するなど、水銀ランプにとって変わる深紫外発光素子としてAlGaN結晶を用いた「電流注入型深紫外半導体発光素子(深紫外LED)」の各所で開発が進められている。

しかし、深紫外LEDの作製に必須であるp型AlGaNは、昇華法を用いたAlN単結晶では、基板中の不純物の影響により光吸収が高いほか、サファイア基板を用いる場合、格子定数差が大きく、その影響により多数の転位(欠陥)が発生してしまい、深紫外線の発光に向かないという欠点があり、製造難易度が非常に高いことが課題となっていた。

一方、今回、研究グループが開発したMIPEは従来の深紫外LEDとまったく異なった原理で動作するもので、p型AlGaNを用いることなく、結晶成長時の転位があっても発光し、かつプロセスも簡単であるため制作コストは深紫外LEDの1/5~1/10(実験室レベル)に押させることが可能だという。

画像2。今回開発されたMIPEの構造

具体的な発光メカニズムは、(1)微小な空間で発生させたプラズマ(マイクロプラズマ)をダイナミックに動かすことによりプラズマ中の電子を引き出し、(2)その電子を加速させた上で、(3)「AlGaN多重量子井戸」に当て、(4)強く励起することで、深紫外光の発光を行うというもので、AlGaNの多重量子井戸の厚みを変化させることで従来の深紫外LEDと同じく任意の波長の深紫外光を得ることができるという。

画像3は2インチウェハを用いたMIPEの発光の様子(波長306nm、出力50mW)。実験室レベルでは229nmの短波長でも動作するデバイスもすでに開発されているという。

画像3。2インチウェハを用いたMIPEの発光の様子

またMIPEはプラズマディスプレイパネル(PDP)と同様のフラットパネル化することができるため、大面積化・高出力化も可能だという。そのため、PDPの封止技術を用いてパネル状に配列してワイドMIPEを作れば、その出力は計算上1m×5mで100Wを超え、水の殺菌処理などに応用することができるようになり、これにより水や空気の殺菌、アトピー治療などの医療応用や病院の院内感染防止、ホルムアルデヒト、PCBなどの難分解性物質の分解、光触媒を用いた新たな材料の光化学合成、DNAを含む物質モニタリングシステムなどといった、幅広い範囲での応用展開が可能になるとする。

例えば、スーツケースの中にMIPEとソーラーシステムを搭載すれば、持ち運びが可能なポータブルハイブリッドシステムとして活用することができ、被災地など飲み水の確保が困難な場所における水の殺菌などを行うことが可能になると研究グループでは説明するほか、センサを搭載することで、水に混入した汚染物質や化学物質を分析し、そうした物質の分解も可能になるという。

画像4。PDPの技術を応用したワイドMIPE

画像5。ワイドMIPEの応用例。水消毒のためのMIPEと太陽電池のポーダブルハイブリッドシステム(緊急時のための自律型ワイドMIPE飲料水供給システム)

なお、研究グループでは、MIPEはデバイス作製のプロセスが簡単であり、低コストで製造可能であることから、水銀ランプに取って替わる次世代光源として期待される技術になるはず、とコメントしている。