東京大学は2月4日、日本最南端の沖ノ鳥島に分布する11科25属93種のサンゴ種の完全なリストをまとめ、種の多様性が熱帯にありながら少ないことを明らかにしたと発表した。

成果は、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻の茅根創教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、2月4日付けで日本サンゴ礁学会誌「Galaxea, Journal of Coral Reef Studie」に掲載された。

沖ノ鳥島サンゴリスト

沖ノ鳥島は北緯20度25分に位置する、日本最南端の孤島だ。行政区分は東京都だが、東京からは1740km、硫黄島からでも720km、沖大東島からは670km離れている。そのため、周囲に40万平方kmもの排他的経済水域(EEZ)を有している。

この島は、水没した火山島の上に厚さ1500mものサンゴが積み重なって海面まで達しているという構造を持つ。低潮位になると、東西4.5km、南北1.7kmの島が現れるが、高潮位では北小島と東小島が残るだけになる。国連海洋法条約第121条では、EEZの起点となる島とは「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるもの」とされており、その点では問題ない。

画像4。沖ノ鳥島

画像5。沖ノ鳥島の位置とその周辺の排他的経済水域

沖ノ鳥島はサンゴによって造られた島であり、サンゴは島の地形と生態系の主役である。そのため、沖ノ鳥島の維持と保全を考える上で、この島にどのようなサンゴが分布するのか(サンゴ相)を明らかにしリスト化することが重要なポイントとなる。また、同島は、世界でもっともサンゴの多様性が高い熱帯東太平洋(フィリピン、インドネシア、ニューギニアで囲まれた、サンゴトライアングル)に接しながらも、サンゴ相が不明であり、サンゴの生物地理の空白域になっていたこともあり、同島のサンゴ相を明らかにすることは、生物地理学的にも重要であるが、これまで国土交通省、水産庁、東京都が同島のサンゴ相についての調査を行ってきたものの、これらの結果を基にしたサンゴの総合的なリストやサンゴの分布状況はまとめられていなかったという。

そこで研究グループは今回、そうしたこれまでの調査結果をまとめ、実際に現地の調査にあたったサンゴの専門家と共にデータや採取標本を検討し、さらに追加の調査を実施する形で、沖ノ鳥島のサンゴリストを作製、その結果、同島に11科25属93種のサンゴが分布することを明らかにしたという。

具体的には、沖ノ鳥島では、「ハリエダミドリイシ」などの「ミドリイシ類」と、「イボハダハナヤサイサンゴ」、「キクメイシ科」のサンゴが卓越するが、北西太平洋で卓越する「ツツユビミドリイシ」や「コユビミドリイシ」は見られなかったという。こうしたサンゴの種構成を、日本本土、琉球列島、台湾、小笠原諸島、マリアナ諸島、パラオなど、北西太平洋の16地点のサンゴの種構成と比べたところ、種の数が周辺の島々に比べて少ないことが明らかになったほか、種構成は周辺の島々とは独立していることも判明した。

ウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)

イボハダハナヤサイサンゴ(Pocillopora verrucosa)

固有の種は見られなかったものの、卓越するミドリイシ類(ハリエダミドリイシ、「ヤッコミドリイシ類似」種、ミドリイシの1種)は、琉球列島で見られる同種(あるいは近縁種)とは形態が異なっていることが確認されたが、研究グループでは、サンゴトライアングル)というサンゴ種の多様性が高い海域に接しながら、相対的にサンゴ種数が少ないことは、同島の生息場の多様性が小さいこと、ならびに亜熱帯還流の中央に位置しほかの島から隔絶され、かつ主要な海流からも離れていることなどの地理的要因によって説明が可能であり、その結果として定着可能期間が長い(およそ70日以上の)サンゴ幼生だけが周辺の島々から加入することができるようになり、この特徴的なサンゴ相が形成されたものと考えられるという。ちなみに少なくとも海面上昇の最後のステージ(完新世)の過去7600年間維持されてきたとみられるという。

沖ノ鳥島と周辺サンゴ礁の種構成

サンゴの生息場マップ。種数は少ないが、サンゴ礁が地形を造る力は大きく、礁内のパッチ礁(サンゴが造った小丘)や礁外の斜面には、サンゴ被度が20%以上の場所が分布している(赤がサンゴ被度20%以上の区域)

なお、現在、国土交通省が、沖ノ鳥島のサンゴなどによる島の維持と保全ならびに同島の利活用のための拠点整備を、水産庁が水産資源の基盤としてのサンゴ増殖を、東京都が水産資源の利用を進めており、研究グループでは、今回の成果がこうしたプロジェクトを進める基礎情報になるとしている。

また、今回の研究で用いられたサンゴ標本の一部は、成果の公表に合わせて、東大総合博物館において展示されている。