農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)は1月31日、白菜の重要病害である「根こぶ病」に対する抵抗性遺伝子「Crr1a」を特定して構造を明らかにすると共に、Crr1a遺伝子が導入された植物は新たに抵抗性を付与されることを確認したと発表した。

成果は、NARO野菜茶業研究所 野菜育種・ゲノム研究領域の畠山勝徳主任研究員、同・松元哲上席研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間1月30日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

白菜産地では、土壌伝染性の微生物「Plasmodiophora brassicae」による根こぶ病の発生が大きな問題となっている。発病すると根がコブ状に肥大し、養水分の吸収が妨げられるため、生育が著しく遅延し、ひどい場合には枯死してしまう。

画像1。根こぶ病を発病した白菜

さらに、根こぶの腐敗によって土中に放出された休眠胞子は10年以上も残存するため、いったん発生すると農薬による防除や土壌改良が必要になるやっかいな病だ。

そんな根こぶ病に対して抵抗性を持つ白菜品種もあり、ヨーロッパ産の株を素材に用いて多数育成されている。しかし、抵抗性遺伝子の実体、発現部位、菌系の病原型との対応関係についての情報はほとんどなかった状態だ。

これまで、同研究所では抵抗性素材の株「Siloga」から2つの根こぶ病抵抗性遺伝子座、「Crr1」と「Crr2」の存在を明らかにしてきた。そこで今回、この内の根こぶ抵抗性の効果が大きいCrr1について、遺伝子の特定に挑んだというわけである。

そして、Crr1が存在する染色体領域内の1つの遺伝子を罹病性のシロイヌナズナとコマツナに遺伝子組換えによって導入にしたところ、根こぶ病菌株「Ano-01」に対する抵抗性が付与されたことから、この候補遺伝子Crr1aが抵抗性遺伝子であることが明らかとなった。

画像2。Crr1aを導入したシロイヌナズナとコマツナの根こぶ病抵抗性。Crr1aを導入したシロイヌナズナとコマツナは、根こぶ病菌株「Ano-01」を接種しても根こぶが形成されない

根こぶ病菌株は、白菜F1品種「CR隆徳」と「スーパーCRひろ黄」に対する反応の違いにより、4つの病原型(グループ1~4)に分けられる。Crr1aを導入したシロイヌナズナに、4つの病原型の菌株を摂取した結果、Crr1aはグループ2およびグループ4の菌株に対して抵抗性を示した。

画像3。4つの病原型に対するCrr1a導入シロイヌナズナの抵抗性反応

これまで根こぶ病抵抗性の有無は根こぶ病菌を用いた接種試験で調査を行っており、実際に発病するかどうかを確認する必要があるのだが、これが大変な手間と時間を要していた。また接種された罹病性の固体がすべて発病するとは限らず、精度にやや問題があったのである。

しかし、今回Crr1a遺伝子が明らかになったことにより、この遺伝子のDNA配列を確認することにより、根こぶ病抵抗性を示す固体だけを確実に選べるようになった次第だ。

抵抗性遺伝子Crr1aを目印にすることにより、抵抗性品種の高精度で効率的な育成が期待される。これには、Crr1a遺伝子を持つ「はくさい中間母本農9号」を抵抗性素材として利用することが可能だ。

画像4。はくさい中間母本農9号

また根こぶ病の被害が認められるバナナ、青梗菜(チンゲンサイ)などのアブラナ科野菜の育種にも応用ができるとしている。